俺がなまえを知ったのは高校入学後しばらくしてからのことだ。教室を出たところで当時2年のヒーロー科に在籍していたなまえに呼び止められた。

「すいません、しょ…轟くんいますか?」
「あ?」
「轟焦凍、このクラスですよね?」


なまえは1学年上のヒーロー科で、前の年の体育祭のテレビ中継を観たことがあったから顔は知っていた。個性は氷。一度対人戦で手合わせしてみたいぐらいには強かった覚えがある。が、頼みを聞いてやる義理はない。チッと舌打ちをしてなまえを無視して教室から出て行く俺の背中に向けて「えぇ…感じ悪…」と小さくボヤいたのが聞こえた。


それから度々1-Aの教室に訪れるなまえをいつの間にか目で追うようになっていた。誰かが話していた内容からみょうじなまえという名前であることを知り、半分野郎の幼馴染であり彼女であるということを知った。その時の気分はそれはもう最悪だった。生まれて初めて自分から興味を持った女がよりにもよってあいつの彼女。

それでも引き下がる気にはならなかった。かといって横恋慕なんてカッコ悪いことをする気にもなれず。

「みょうじ先輩と轟が並んでると絵になるよなー」
「あーわかる!美男美女ってやつ?」

教室の入り口で何かを話している半分野郎となまえを見ながらクソ髪とアホ面のそんな会話をしているのが聞こえてチッと舌打ちしてから席を立った。


「オイ、みょうじ…先輩」
「はい?」

半分野郎に手を振り廊下を歩き出したなまえを呼び止めた。

「…対人訓練付き合えや」
「えっ、は…?」

今思うと遠回しにも程がある。それでもなんとかなまえとの繋がりが欲しくて、しかしクラスメイトの彼女に抱いてしまったクソみたいな下心を微塵も感じさせたくなくて出た言葉がこれだった。


それから俺たちはたまに演習場で手合わせをするだけのなんとも奇妙な関係になった。このことはクラスの他の奴らに言ったことはないし、なまえも誰にも言わなかった。

「さっすが爆豪くん。強いから良い練習相手になるよ」
「…こっちの台詞だわ」

グッと伸びをしながら笑ってそう言ったなまえはさすがにヒーロー科の先輩というだけあって強かった。俺と手加減無しで戦った後でもヘラヘラ笑っていられる女はそうはいない。個性が半分同じということもあってか舐めプと動きが良く似ていた。

半分野郎と幼馴染ということは、つまりあいつの生い立ちを見てきたというわけで。それも全部分かった上でこいつはあの舐めプを受け入れて付き合っているということだ。このときはまだ知らなかった、あいつの兄のことも含めて、だ。

まあだからと言ってこいつらの関係が今更変わるわけではない。俺との関係も、もう今更変わらない。



「爆豪くんの技は派手でいいねー!」
「あァ!?」

なまえに吹き飛ばされ演習場の端の方で瓦礫を登っていると、遠くから楽しそうななまえの声が聞こえた。お前の個性だって十分派手だろうが、そう思ったが言わなかった。なまえの創り出す氷は派手というよりは綺麗だ。戦闘に使うには勿体無いといつも思っていた。

「わたしも爆破とか半分炎とかね、そういう温度のある個性が欲しかったよ」

頭が紅白になるのは嫌だけどね、そう言って笑ったなまえは手のひらからどデカイ氷を出して俺に向けて投げ飛ばしてきた。ソレをギリギリで躱すと鋭利に尖った先が俺の頬を掠め、薄く切れた頬から一筋血が流れた。







思い出す限り出会ったときの印象は良くない、むしろそこそこ悪かった。それがどういうわけか付き合って婚約して、今は同じベッドに寝ている。それもお互い裸で。人生とは不思議なものである。


朝日がカーテンの隙間から差し込む。光に照らされた肌はこいつの個性の影響もあるらしく透き通るように白い。こちらに向けられた背中をつつっと指先でなぞればもぞもぞと動きようやくこちらを向いたなまえは眩しそうに目を細めた。

「ん…勝己くん…?」
「起きんの遅ぇんだよ」
「んむっ」

寝起きでふにゃふにゃのなまえの頬を鷲掴みにする。

「ハッぶっさいくだな」
「も、やめひぇよ…」

そのまま唇を押し付けてやった。

「…悪趣味」
「うるせぇ」

俺に頬を掴まれて変な顔になったなまえに睨まれるが間抜けな面のせいで全然怖くない。掴んでいた手を離しなまえの顔の両脇に手をついた。

「勝己くん仕事は?」
「今日は遅出」
「そっか」

俺の首に腕を回し上半身を軽く持ち上げ今度はなまえから触れるだけのキスをされた。

「なんか…懐かしい夢見た」
「あ?」
「勝己くんと出会った頃の夢」
「…容赦無く氷の塊投げられた頃な」
「そんなこともあったね」

なまえの細く白い指がするりと俺の頬を撫でる。

「傷、残らなくて良かった」
「あんな擦り傷残らねぇよ」
「わたし勝己くんの顔綺麗で好きだよ」
「顔かよ」
「うん」

そう言って柔らかく笑いながら、昔なまえに傷を付けられたところに口付けを落とされる。それからもう一度唇を重ね合って深く口付けていく。

「んっ…」

同時になまえの柔らかい肌に手を這わせると首に絡められていた腕が背中に回り力を込められる。

「はぁー…」
「どうしたの?」
「お前今から仕事だろ」
「…そうだね」
「チッ…分かってて煽るようなことすんのやめろや」
「勝己くんは優しいねぇ」

へらっと笑ったなまえの上から退くと、よいしょと年寄りくさい声を出して起き上がった。


「さっきの続きは帰ってからね」

ちゅ、と音を鳴らして今度はガキがするような触れるだけのキスを頬に落とされた。

それから床に落ちていたシャツを羽織り鼻歌を歌いながら寝室から出ていったなまえの後ろ姿に再び舌打ちをした。

堕ちるのはかんたん

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