誕生日/遊城十代(変換なし)



レッド寮のあの人のところへ、夜の闇に紛れてやってきた。
本来ならこんな時間に女子がこちらへ来ることは許されない…、幸い誰にも見つからずに目当ての扉まで到着できた。
余分に響かせないようにノック。
しかし開く気配はなく。扉に耳を当ててみればどうやら中に誰もいない様子だった。
特に確信があったわけではないが、寮の裏手を回り、海を臨む丘に向かった。
木々の陰に心細い思いをしながら歩を進めること10分、開けた視界に満天の星空が広がる。

「じゅーだい。」
「んー?」

振り向いた彼は真昼の太陽のような笑顔をしていた。

「お誕生日、おめでとう」
「なんだよ、昼間も聞いたぜ」
「そうだけど、がやがやしてたじゃない。ちゃんと、言いたくて」
「そっか」

十代の隣に腰を下ろす。
夜気で湿った芝が思ったより冷たくて肩を震わせた。

「風邪ひくなよー」
「そっちこそ」
「あ、流れ星」
「……」
「何祈ったか当ててやろうか」
「じゅーだいが、来年もいっしょにいますようにって」
「卒業だぜ」
「アカデミアじゃなくても、一緒にいることは出来るでしょ」
「皆、卒業してどこにいくんだろうなー」
「来年の同じ日、同じ時間、にね、おめでとうって言うわ」
「ははっ、クリボーも祝ってくれるってさ」



今、皆は卒業し、それぞれの道を歩んでいる。

十代はあの時私の隣で、この運命を予感していたんだろう。
私と十代の交差した人生は、二度と交わらないように平行に引き離された。
X・Y・Z軸全ての角度から見て芸術的なまでに、完璧に。
それに気づかされて、やっと頭の中の私が彼とさようならをした。
私が老いた頃にも、遊城十代という概念はひとつの世界に存在し、同時にすべての世界に存在する。
取り落とした本が開いたページには「一は全、全は一」。
あの時の彼は隣にいない。
けれど世界と融合した彼は常に共にあるのだ。






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