緑 彼女 午前8時10分。 いつもの場所で友人に会い、学校に向かう。 日焼け止めを塗っているとはいえひりひりするような強い日差しが、肌に突き刺さる。 できるだけ日に当たらないように学校を目指す。 校門につくとある人が目に入る。 彼だ。同じクラスの鉄浅葱(くろがねあさぎ)君。 一緒に校舎へ向かう友人に悟られないように彼のことを盗み見る。 眩しそうに細める目、夏の間に少し焼けた健康的な小麦色の肌、癖のある黒髪。 すべてが鼓動を跳ね上げさせる。 彼の姿を追うようになったのはいつからだろうと考えていると、友人に「どこみてるの」と声をかけられ現実に思考が戻る。 なぜだが友人の顔が一瞬にやついて見えたのは気のせいだろうか。 そのまま他愛ない会話をしながら教室に向かう。 午前8時20分。 教室に入り自分の席へ向かう。 そのまま友人と話していると、彼が彼の友人たちと共に教室に入ってきた。 そんな彼にちらりと視線を向けると、彼の視線と交わった。気がした。 私の席は窓側から二列目の前から二番目。 彼の席は窓側の一番後ろ。 私にとってこの席は、彼の姿を見れないので少し残念だ。 午前8時30分。 始業のチャイムが鳴った。 1限目の教科である生物の授業が始まった。 教科書から顔を上げ深い緑色の黒板を見ると瞬く間に白で埋まっていくのが目に入った。 彼 午前8時10分。 いつもと同じ道を通り、学校に向かう。 朝からシャワーを浴びた俺のことなんて知らない太陽は容赦なく降り注ぐ。 いつものことだと諦めながら、校門をくぐる。 ふわりと甘い香りが横を通る。 彼女だ。同じクラスの萌黄撫子(もえぎなでしこ)さん。 友人であろう子と楽しそうに会話を弾ませながら校舎へと向かっている。 屈託の無い笑顔、夏を過ごしたというのに焼けることをしらない白い肌、艶のある黒髪。 すべてが鼓動を跳ね上げさせる。 彼女の姿を追うようになったのはいつからだろうと考えていると、友人たちに「おはよう」と声をかけられ現実に思考が戻る。 なぜだが友人の顔が一瞬にやついて見えたのは気のせいだろうか。 そのまま他愛ない会話をしながら教室に向かう。 午前8時25分。 友人たちとしゃべりながら教室に入る。 周りに悟られないように彼女の席を見やると、彼女もまた友人と会話を楽しんでいた。 視線を逸らそうとしたその時、彼女がこちらをちらりと見た。気がした。 俺の席は窓側の一番後ろ。ベストポジションだ。 彼女の席は隣の列の前から二番目。 俺にとってこの席は、誰にもばれずに彼女の姿を追うことはできる。 午前8時30分。 始業のチャイムが鳴った。 1限目の教科である数学の授業が始まった。 ふと、窓の外を見るとエメラルドのようにキラキと光る木々が目に入った。 緑 大自然を感じさせてくれるこの色は私達に安心を与えてくれる。 [mokuji] [しおりを挟む] |