カレーライスの裏事情@




「へぇ、今日はカレーか。」

「うん。アキラ嫌いだったっけ?」

「いや…嫌いじゃないけど…。」





『カレーライスの裏事情』





***

仕事帰り、ケイスケは夕飯の食材を買うためにスーパーに向かった。
夕方だったためタイムサービスがあり、肉やら魚やらが半額で売られていた。

「今日の夕飯は何にしよう……あ、野菜が安い!肉も半額か…。」

ニンジン、ジャガイモ、玉ねぎが今日は特売だったようだ。

そのあと、肉のコーナーに行き、『半額』とシールの貼られた豚肉を手に取り、カゴの中に入れた。



いつもどうりにレジに並ぶ。
レジ打ちのおばさんはケイスケの顔を見るといつも笑う。

「ふふっ、なんか主婦みたいね。」

「んなっ?!…違いますよー!」

「一人暮らしじゃないんでしょ?大体男の子で一人暮らしの人は買い弁したりするからね。…食べさせたい人がいるのかしら」


おばさんが含みがちにそう言った。
あながち嘘ではない。…まぁ、その『食べさせたい人』というのは彼女を指しているのだろうが、そこは間違っている。
しかし、そんなことをおばさんにいちいち訂正する必要もない。

ケイスケは適当に愛想笑いすると、さっさと会計を済ませスーパーをあとにした。





玄関を開けるとアキラが何故かエプロンをして立っていた。

「ど、どうしたのアキラがエプロンなんて…」

「え…いや、ケイスケの帰りが遅かったから何か作ろうかと思ったんだけど。…なんだ、買い物だったのか。」

「あぁ、そうなんだ。…早く伝えておけばよかったね。」


今日はたまたまアキラとは帰る時間が違ったため、言うタイミングを逃したのだった。

「それで?何を作る予定だったんだ?」

「…カレーを。カレーなら俺でもできるかと思って。」


正直、アキラは料理が上手いとはいえない。
それでも自分のために料理を作ってくれようとしていたアキラの優しさだけ受け取ることにして、バトンタッチしようとしたその時だった。



ゴロゴロゴロ…



雷鳴が響き渡り暗くなり始めた部屋が一瞬光った。

エプロンを脱ぎかけていたアキラの手が止まり、しゃがみこんでしまった。


「…アキラ?」

「……」


耳を塞いだまま何も言わない。
その手が微かに震えているのは気のせいだろうか。

「アキラ、怖いの?」

「え…あ…いや…」


アキラは違う、と否定するが様子からして怖いというのは明らかだった。


「…わいんだ…。」

「えっ?」

「…怖いんだ。嫌いなんだ。雷。」


アキラの口から『怖い』というワードを初めて聞いた。



ゴロゴロゴロ…


またもや雷が鳴る。アキラの目には涙が浮かんでおり、咄嗟にケイスケの服を掴んでいた。

「!?」

「…ごめん。しばらくこのままで…」

アキラ服を掴んでいる手は震えていた。
ケイスケはそんなアキラの手を掴むと、朝からひきっぱなしだった布団に強引に押し倒した。

「な…なんだよケイスケっ!」

「…雷嫌いなんだよな?…それなら聞こえなくしてあげる。」

何をされるのか察したアキラは逃れようとしたが、腕をつかまれると頭上で一つに纏め上げられてしまった。
そのままケイスケは軽くキスをした。初めは啄ばむようなキスであったが、次第にお互いが舌を絡めて求めあっていた。

「んくっ…っは…」

「…っ…ん…」


どちらのものといえない銀糸が伝う。

息苦しくなり、肩で呼吸をしているアキラにケイスケは真っ黒の布をかざした。

「これ…」

「アキラ、目瞑って…」

「……」


少しの躊躇いはあったが、言われてたとおりに瞼を閉じる。するとケイスケはその布でアキラの目を縛った。
アキラの視界は完全にシャットダウンされた。





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