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結婚式も無事?に終わり、新居に身を置いたシキとアキラは何もない殺風景な部屋で腰を下ろした。
「…アキラ、何を考えている」
「…別に。」
見られているのが恥ずかしい、だなんて口が裂けても言えない。
これから二人で生きていくのだと思うと、何だか緊張してくる。
暫し沈黙が続いたが、その雰囲気を断ち切るようにアキラが口を開いた。
「あ、あの…料理ってどっちが作るんだ?」
「俺だ。」
シキに即答され、言葉に詰まる。
アキラが料理が苦手だということを配慮したのだろう。シキが何かを言う前に言ってくれた。
そのあと、シキはただし…と言葉を繋げた。
「…料理以外の家事はちゃんとアキラがやれ。」
「…全部?」
「まぁ、風呂洗いとゴミ出しくらいはしてやらなくもないがな。」
「…わかった。」
想像以上に家庭的なシキにアキラは驚いた。
全て家事関係は自分がやらなければならないと思っていたからだ。
それを読み取ったのか、シキはふっと笑うとアキラの頭を撫でた。
「そんなに亭主関白だと思ったのか、お前は。」
「…ただ…意外だっただけだ。…でも、嬉しい…」
「全く。可愛いことを言う…」
「可愛いは言うなよ。」
…ずっとこんな生活が続いていけばいいと思っていた
しかし、現実はそう甘くはなかったのだ……………
***
ピンポーン
チャイムが鳴り、アキラが玄関を開けるとひょっこりとリンが顔を出した。
「へへー、来ちゃった!」
「リン!!どうしたんだ?」
「えー、そりゃアキラが馬鹿兄貴に何か悪いことされてないかっていう確認と、ちゃんと生きてるかって生存確認だよ!」
「…悪いことはたくさんされてるが大丈夫だ。それにちゃんと生きてる。」
冗談だよ!と言いながら、何の許可もなくズカズカと中に入ってくる。
まるで新しいものでも見るかのように、周りをくるくると見回している。
「あっ!結婚式のときの写真だ!アキラってばホント可愛かったんだよねー!」
「…可愛い言うな。」
「あんな異例な結婚式は忘れたくても忘れられないよ、うん。兄貴のキスの長さと言ったら…」
「リン!!」
かぁーっと顔を赤くするアキラ。
あの時のことを思い出したのだろう。
からかうかのようにリンは笑うと再び部屋を見だした。
「リン、お茶入れたから。」
「ん。んじゃ座らせてもらいまーす!」
椅子に向かい合うようにして座るとニコニコ顔でアキラを見ている。
「…なんだよ。」
「えっ?あぁ、いやぁ…何て言うか…アキラ幸せそうだなぁって。」
「そうか?」
「だってトシマにいたときと違って随分と表情が柔らかくなったもん!おっさんとも話してたんだけどさ、アキラって変わったよねーって。」
自分では何の変化も感じない。
だが、他人から見たらそうらしい。ケイスケもこの間遊びに来たときにリンと同じことを言っていた。
そういえば!とリンが話題を変えてきた。
「アキラさ、仕事って何してんの?」
「あぁ、ペットショップの店員だ」
「ええっ!ホント!?」
意外とでも言うように目を一段と大きくしてリンはアキラを見た。
ペットショップは結婚前にシキがアキラに渡したあの紙のところだ。
結婚してすぐにそのペットショップに行き面接を受けてきた。
シキの言うとおり、店長や動物からも熱烈なラブコールを受け、その日のうちに就職が決まった。
「それってさ、どこのペットショップ?」
「…言わない。」
「えー!何でさー!!」
悔しそうにリンが見てくるが、アキラは言ってはいけないというシキの言い付けを守っていたのだ。
シキ曰く、『狂犬どもがお前目当てにやってくる』からだそうだ。
リンだけならまだしも、このことがケイスケに知れたら大変なことになる。
ケイスケは昔からストーカー…もとい、人の後をつけてくるという習性があるのでシキの言うことに賛同したわけだ。
どうしても!とリンが言ってくるが、頑なに拒否をした。
「…わかった。アキラがそんなに言いたくないんなら無理には聞かないよ。…まぁ、どうせ兄貴に言わないように口止めされたんでしょ?」
(図星だ!どうしてわかった!これが兄弟パワーか!?)
あまりにドンピシャだったので、何も言い返せないアキラだった………
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