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訪問者、来る!A
「そうそう、アキラ、これを兄貴に渡しておいてもらえるかな?」
「…封筒?」
リンから手渡された物は真っ白な封筒だった。
中身は分からないが紙と何やらゴツゴツした物が入っているようだ。
その内容物が気になってアキラは尋ねたが、リンは教えてくれない。
「アキラ、絶対に中身は見ないでね!」
表情はにこやかであるが、その言い方にはトゲがあった。
半ば脅しと取れるような言い方でアキラに有無も言わさず預けるとリンはそそくさと帰る準備を始めた。
「リン、もう帰るのか?」
「だってアキラ元気そうだし、コレを手渡してもらいに来ただけだからさ!
ほら、あんまりアキラ一人の時に男が遊びに行ったりしたら旦那が怒るでしょ?」
…旦那とはシキのことだろう。
気を遣ってくれているのだろうが、別にそんなことは気にしなくても大丈夫なのに…そうアキラは言ったが、リンは帰ると聞かないので玄関まで見送りに行った。
はて…この封筒…一体何が入っているのだろうか……
***
その日の夕方、仕事から帰ったシキはアキラを見るなり怪訝な顔をした。
「アキラ、何だその顔は。」
「何だって…何が?」
「顔がにやけているぞ。」
自分では顔がにやけていることに全く気づかなかった。
訳を聞いてきたのでアキラは今日リンが遊びに来たことを伝えた。
シキは溜息をつき、「なんだそんなことか。」と一言言うとつまらなさそうにアキラから視線を外した。
このとき、アキラはリンから渡された封筒の存在を思い出し、シキに手渡した。
「…これをアイツが?」
「あぁ。俺には中身を見るなって念を押して渡してきたんだ。…というか何だよ、それ。」
「今見てみる。」
そう言うとシキは封筒を開けた。
それをアキラには見せないようにしながら中身を確認する。
封筒の中にあるゴツゴツした物に気づくと手を奥まで突っ込みそれが何かをよく見ている。
それを見た瞬間、シキはパッと表情を変えた。
何かを企んでいるかのような目だ。
アキラはその顔が嫌でたまらなかった。こういう顔をしている時のシキはいつも悪い事を考えているのだ。
「アイツも面白いことをしてくれる…」
「何だったんだよ。」
「それは言えないがアキラには全く関係のない物だった。」
「あっそ。」
シキもアキラに含みのある言い方をした。
それが何だか気に入らなかったがアキラはそれが何かを追求するのは止めにした。
自分だけが仲間外れにされている気がしたが、気にしないように自分に言い聞かせた。
さて、そう言うとシキは立ち上がりキッチンに行った。下の扉にある鍋を手に取ると口端を吊り上げこう言った。
「今日の夕飯は俺が全て作る。アキラは先に風呂にでも入っておけ。」
珍しいこともあるもんだ。夕飯を全てシキが作るというのは今日が初めてだった。
そのことに感激してしまい、アキラはシキに言われたとおり風呂に向かった……
***
「出来たぞ」
「おおっ…マーボー豆腐に中華スープ…今日は中華か。」
「上出来だろ。さっ、食べるぞ。」
見た目も美味しそうだったが食べたらもっと美味しかった。
アキラ用に取り分けられたマーボー豆腐を一気にたいらげると満足そうに箸を置いた。
「美味しかった。ご馳走様」
「今日は特別だからな。」
『特別』という意味はわからなかったが気にしないことにした。
夕飯が終わりしばらくすると急に眠くなってきた。
「シキ、悪いが先に寝かせてもらうから。」
「まぁ、明日から仕事も忙しくなるんだろう?今日は早く休め。」
「…ゴメン。おやすみ」
えらく気を遣ってくれるシキに疑問を感じるが甘えさせてもらうことにした。
しかし、この時アキラの身体の中ではある変化が出始めていたのだった………
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