高嶺の憂鬱@
「なぁ、バレンタインって知ってるか?」
「あっ?あぁ、2月14日に好きな人に女が男にチョコを渡すやつだろ。」
たまたま城内の食堂を歩いていたとき、そんな会話が聞こえてきた。
アキラはその話が気になり、兵士に声をかけた。
『アキラ様っ!』
兵士は立ち上がるとアキラに深々と頭を下げた。
「…そのバレンタインの話をもう少し詳しく聞かせてくれないか?」
意外な言動に兵士は戸惑いを見せた。
高嶺の花と呼ばれ、ひそかに兵士たちから憧れの的として見られていたアキラにそんなことを言われたのだから驚いて当然だ。
***
自室に戻り、頭を悩ませるアキラ。
頭を掻きむしり机に突っ伏す。
総帥…シキにどうやって渡せばいいのか…
「…チョコと言われてもな…「何腑抜けた顔をしている。」
低音が部屋に響き、部屋の入口にいた人間を見て目を見開いた。
「…総帥…」
「考え事か…。くだらんことで頭を使うな。」
「…はい…。」
シキが自分の自室に足を運んでくるのは稀だ。
「…少し面白い話を耳にしてな…。」
「面白い話…?」
シキはアキラのほうに歩み寄ると頭を軽く撫で、それ以上は何も言わず踵を返して立ち去った。
「…っ…」
何故、一瞬シキが優しい眼差しで自分を見たのか理解できない。
それがますますアキラの頭を悩ませるのだった………
翌日……
結局昨夜は全く寝付けず、ぼーっとしていた。
周囲の兵士も憔悴しきったアキラを見て心配しているようだった。
何故なら、今日は2月14日であるにも関わらず、シキに渡す物が全く用意出来ていなかったからである。
シキは大勢の兵士たちの前で話しをしている。
「明日敵地に乗り込む。我々に恐れはない!全力でなんとしてでも勝利を手に……アキラ!」
急に名前を呼ばれ我に返る。
…やばい…怒らせた…
頭の中で警報が鳴る。
「すみません…」
謝るがシキは黙ったままアキラを一瞥すると、視線を逸らし話しを再開させる。
「…バレンタインだ、などと現を抜かさぬように。わかったな!!」
シキが締めると兵士たちからはやる気に満ちた歓声が上がった。
不意に腕を掴まれ、見上げると真っ赤な目が見下ろしていた。
「来い。」
痛みを感じるくらいに強く腕を握られ、大広間を抜ける。
「そ、総帥…離してください!」
「ふん、主に逆らおうと言うのか。…面白い。」
アキラの言うことなど気にせずズカズカと無機質の廊下を歩いて行く。
そして、気がつけばいつの間にかシキの部屋に連れていかれていたのだった………
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