existA



その日からアキラは変わってしまった。食事係が食事を持ってきても一切口をつけなくなった。
もぬけの殻になってしまったように、出窓の前の椅子に座ったままどこか遠くを見つめているだけだ。
ただ虚しく時間だけが過ぎていく…

時には癇癪を起こし、兵士や世話係に八つ当たりし始めた。


世話係はそんなアキラを見ていられなくなり、兵士に詰め寄る。


「なんとか連絡は取れないのですか?!このままではアキラ様が壊れてしまいます!」

「…そんなのはわかってる!…じゃあどうやって連絡を取れというんだ!」

「……。」





***

「…シキ…シキに会いたい…」

アキラはぽつんと言葉を漏らした。

身体は細くなり、涙の泉も枯れ涙すら出ない。布団に包まり目をきつく閉じる。

「シキは死んだのかな…。…もう生きてる理由がないよ…。自分も死んでしまおうか……」


重い身体を起こし、引き出しにあった自分のナイフを取り出す。このナイフはトシマにいたときに持っていたものだ。

それを腕に押し当て軽く引く。すると赤い筋が入り、そこから血が出始める。

何本も何本も腕に傷を付ける。

痛みなんて感じなかった。
これでシキのところに行けるのなら死など恐ろしくはない。

「…シキ…今会いに行くね……」

手首付近にナイフを持って行き、一気に引く。
アキラは自分で自分の鮮血が飛び散るのを見て、そのまま意識を失った………










夕食時、食事係がおそらく食べないであろう夕食を持ち、アキラのいる部屋をノックした。
いくら気分が落ち込んでいても入室許可の応答をするはずであるのに、今日は中から何も聞こえない。
嫌な予感がして、許可なくドアを開け目の前の光景に言葉を無くす。

アキラが床に倒れていたのだ。


夕食を乗せたトレーを落としアキラの元へ駆け寄る。


「アキラ様!アキラ様!」

応答が無く、ぐったりした身体を起こし、再び小さな悲鳴を上げた。
身体が血に染まり、顔は白を通り越して青白くなっていた。

「誰か!誰か来て下さい!!」





***

アキラは一命を取り留めた。意識は戻らないが、今は着ていた服を変えられ暖かいパジャマを着ている。これで幾分見れるようになった。

アキラの症状は、手首を切ったことによる出血からの貧血、そして重度の栄養失調であった。
手首については急所を外していたため出血だけで済んだ。
しかし、事態は深刻だ。その傷口が膿んで高熱が出ているのだった。

「シキ…死なないで…置いていか…ないで…」

高熱にうなされている。顔は上気していて赤くなり、薄く開いた口は荒く呼吸をしている。眉間に皺を寄せる様は見ていて苦しそうだ。




依然としてシキたちと連絡が取れない。
そして一向に下がらない熱に医師も焦りだした。
あれから3日が経ち、アキラの意識もようやく戻ったが予断は許されない状態ではある。以前よりもさらに痩せてしまった身体。片腕には包帯が何十にも巻かれ、もう片方の腕には点滴による痛々しい痣が見られた。

すぐに温くなってしまう額のタオルを取り替えながら医師は思う。

アキラにとってシキはどれほど大切な存在であるか…。
アキラの中の大部分をシキが占めているのだろう。……もし万一シキが死んだらアキラはどうなってしまうのだろうか……。


その時、アキラの熱い右手が医師の手首を掴んだ。

「シキは…帰ってくるの…?」

「…大丈夫ですよアキラ様。シキ様は強いお方です。それはアキラ様もご存知でしょう?」

熱で潤んだ目で医師を見て、僅かに微笑んだ。そのままアキラは眠りについた。

正直、確証は持てない。帰ってくるかどうかなど医師もわかるはずがなかった。しかしアキラをこれ以上不安にはさせられない。






_




[*前] | [次#]
戻る
topへ



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -