日が暮れてもグソクムシャと歩いてた2


「なんでオレじゃねえんだよッ!?」


 何年前のことだったのか、もう思い出す気にもならない。まだオレがメレメレ島にいた頃、あのジジイのことを『師匠』と呼んでいた頃のことだ。その年は、当時のキャプテンが20歳になって、キャプテンを辞める年だった。
 キャプテンとは、しまキングとぬしポケモンに認められた者だけがなれる、試練を与える存在。アローラ中のトレーナーが憧れる、強いトレーナーの代名詞。
 オレはハラのじいさんの弟子の中で、アローラ相撲もポケモンバトルも、一番強かった。年上のヤツや、オレよりトレーナー歴が長いヤツにだって、負けたことがなかった。だから、その存在に、当然なれるものだと思ってた。アイツはきっとオレを選ぶ、オレの力を認めてくれると、信じて疑わなかった。
 でも、オレは選ばれなかった。新しいキャプテンに選ばれたのは、オレに一度も勝ったことのないトレーナーだった。それを知った時、オレはすぐにハラのじいさんの家まで行って、そして開口一番にこう言った。


「あんな弱っちいトレーナー、ぬしポケモンに認められるハズがねえッ! オレのポケモンたちなら…!」


「ぬしポケモンになど負けぬと、そう言いたいのですかな?」


「当たり前だろうが! グソクムシャもアリアドスも、オレが鍛えた世界一のポケモンだ! 誰にだって負けるはずがねえ!」


 納得がいかなかった。オレは強かったし、オレのポケモンたちだって強かった。なのに、あのジジイはオレを見て、がっかりしたように肩を落とした。


「グズマ、自分のポケモンを何よりも信じていることは、お前の良いところでもある。だが、お前にとって大事なのは、自分のポケモンだけですかな?」


「は……?」


「お前が強いトレーナーだということは、師たるこのハラが一番よく知っていますぞ。だが、ただ強いだけではキャプテンは務まらない。ただ強いだけではカプには認められない」


「ッ…! 相も変わらず、カプ、カプ、カプってよォ! あんな気まぐれに人を振り回すだけの、古くせえ守り神がそこまで大事かよ!?」


 あのジジイの言ってる意味がわからなくて、オレは叩きつけるようにそう吐き捨てた。なにがカプだ。守り神だ土地神だと囃し立てようが、所詮はポケモンじゃねえか。ポケモンバトルでオレのポケモンたちに敵うヤツなんか、それこそハラのじいさんの手持ちぐらいで、他には1匹だっていやしねえ。


「…カプに認められりゃあ、アンタはオレをキャプテンに選ぶのか?」


「グズマ、なにを…」


「だったら認めさせてやる…。カプ・コケコは戦うのが好きなんだろ、だったらオレさまが相手してやるよ…! カプに勝てば、あのカミサマだってオレに…!」


「ばっ…グズマ、待てい!」


 ジジイが止めるのも聞かず、オレはジジイの家を飛び出して、カプがいるという遺跡へ向かった。島巡りを成し遂げようと、オレにZリングの1つもよこさなかったカプなんざ、あのジジイが言うように敬えるかってんだ。いっそ粉々になるまで、オレのポケモンの力でブッ壊してやる。そうすりゃ、きっと師匠だって、オレを。


「カプ・コケコ!! メレメレ、いやアローラで一番強いトレーナーとポケモンが来てやったぞ!! オラ、さっさと出てこいってんだ!!」


 カビくせえ遺跡を抜けて、祭壇の間へと辿り着くなり、オレはそう叫んだ。
 するとオレの声に反応してか、祭壇の間全体がパァッと光を帯びて、そしてすぐにビリビリと肌を差すような感覚が広がった。カプ・コケコの特性の『エレキメイカー』だろう。いよいよおでましってワケか。


「カプゥーコッコ!!!」


 まるで稲妻のように、突然カプ・コケコが現れた。初めて目にするカプの姿に、オレは息を呑むと同時に沸々と怒りが湧いてきた。オレにZリングを渡さない、オレを認めない、古くせえカミサマ。
 オレはすぐに、モンスターボールを取り出した。オレの一番の相棒、グソクムシャ。頼むぜ相棒、お前がこのアローラで最強のポケモンだってこと、アイツらに証明してやってくれ。オレはボールを投げて、中からグソクムシャが出てきたその瞬間に、バトルの指示を出した。


「グソクムシャ、『であいがしら』!」


 オレたちを値踏みするように見ているカプ・コケコに、ボールから飛び出したグソクムシャが目にもとまらぬ速さで『であいがしら』を繰り出した。タイプ相性は良かねえが、それでも牽制としては十分なくらいだろう。


「そのまま『シェルブレード』だ! 距離を取らせるな、畳みかけろ!」


「グォォンッ!」


 グソクムシャはオレの指示通り、次々に『シェルブレード』を繰り出し、カプ・コケコとの距離を詰めていった。だが、カプ・コケコはひらりひらりと身を躱し、グソクムシャの攻撃をやり過ごす。それに苛立ったグソクムシャが、最後に大きく爪を振り上げて、思いっきりカプ・コケコに振り下ろした。カプ・コケコはそれを腕の殻のような部分で受け止め、グソクムシャを弾き返す。一瞬、グソクムシャの体勢が崩れ、その隙にカプ・コケコは殻を閉じ、そして咆哮した。


「コォォォーーーーーッコ!!!」


 その瞬間、急激に何かに押しつぶされるような感覚が、オレとグソクムシャを襲った。オレはとても立っていられず、たまらずに地面に膝をつく。グソクムシャは寸でのところで何とか耐えているが、かなり体力を消耗したようで、肩で息をするように上体を大きく上下させている。この技はたしか、ジジイから聞いたことがある。相手ポケモンの体力を大きく減らす効果を持つ、カプたちだけが使える技、『しぜんのいかり』だ。


「ケッ、むしろ好都合だぜ! グソクムシャ、戻って来い!」


 体力を大幅に削られる、つまりグソクムシャの特性『ききかいひ』が発動するってことだ。そうすりゃ次にアリアドスに交代して、こっちは一度状況を立て直せる。オレは得意げに笑って、グソクムシャを呼び戻した。いや、呼び戻そうとした。
 だが、グソクムシャは戻ってこなかった。まるで何かに縛り付けられたかのように、僅かに身じろぎするだけで、ボールの中に戻る気配が無い。


「グソクムシャ!? どうし……」


 そこでオレは気付いた。カプ・コケコが、外殻の中から鋭い眼で、グソクムシャを睨みつけている。あれは『くろいまなざし』だ。


「グソクムシャ、離…!」


 しまった、と思う間もなく、カプ・コケコの身体が眩く発光し、その身体から高圧の電流が放出された。おそらく、『ほうでん』の技だろう。『エレキメイカー』により発生した『エレキフィールド』では、でんきタイプの技の威力が上がる。みずタイプのグソクムシャは、高威力の弱点タイプの技を喰らって、たまらずその場に倒れ込んだ。


「ッ……!」


 頭の中が真っ白になりかけた。まさか、このオレさまが、負けるかもだと? 神だなんだと言われようと、所詮はポケモンだというのに、ポケモンバトルで、オレが?
 ふざけるんじゃねえ、負けてたまるか。アローラで一番強いのはオレだ。オレは何としてでも、そう証明しなければならない。でないと、いつまで経っても、オレは、オレのポケモンは!


「アリアドスッ、来…!」


「やめるのだ、グズマ!!」


 すぐさまアリアドスを繰り出そうとしたその時、後ろから誰かに腕を掴まれた。振り返ると、滝のような汗をかいた、ハラのじいさんがそこにいた。じいさんはオレの腕から手を離すと、倒れているグソクムシャの前で臨戦態勢を取るカプ・コケコに歩み寄り、深々と頭を下げた。


「カプ・コケコよ、このハラの弟子が粗相をいたしましたな。未熟者のすること故、どうぞご容赦いただきたく…」


「…カプゥ」


 カプ・コケコはつまらなそうに低い鳴き声を洩らし、稲妻のような速さで再び姿を消した。『エレキフィールド』となっていた祭壇の間が、次第にもともとの空間へと戻っていく。さっきのバトルは何だったのかと思うような、いっそ気味の悪いほどの静寂の中、真っ先に口を開いたのはハラのじいさんだった。


「…この、大ばか者が!!」


 低い怒鳴り声が祭壇中に反響して、オレの鼓膜にうるさいほど響いた。ハラのじいさんは、今まで見たことのないような凄まじい形相で、オレに振り返った。


「よりにもよってカプ・コケコに戦いを挑むなどと!! カプの前に立つということがどういうことか、このハラが口を酸っぱくして言い続けてきたことを忘れたか!!」


「…うるっせえんだよ!! トレーナーがポケモンとバトルをすることの、何がいけねえってんだ、あ゛ぁ!?」


 これまでなら、自分の非を認められなくても、師匠の言葉だからと頭を下げていただろう。だがこの時のオレは、どうしても謝る気にはなれなかった。グソクムシャがやられたことに苛立っていたのか、バトルの邪魔をされたことが許せなかったのか、ハッキリとした理由はオレにもわからない。ただ、死ぬほどムシャクシャして、今すぐに何かをブッ壊してやりたいと、そう思ったのだ。


「ふざけんじゃねえ、なにがカプだよ…! オレは強くなりてえんだ、どんなヤツでもブッ壊せるほど、強いトレーナーになりてえんだよ! カミサマだから、特別なポケモンだから勝てないなんて、冗談じゃねえ…!」


「…グズマ、それが望みか? ただ破壊するためだけに強くなりたいと? 何故わからない、強くなるということは…」


「あ゛ーっ、うるせえうるせえうるせえッ!! アンタのお説教はもうウンザリだ!!」


 グソクムシャをボールに戻しながら、オレはそう叫んだ。もう何も聞きたくない。どうせオレみたいな弟子なんざ、アンタはもういらねえだろ。だったら破門される前に、こっちから見限ってやる。オレはアンタに捨てられたワケじゃない、オレがアンタを捨てたんだ。これ以上、あのジジイの声を聞くのも嫌で、オレは相棒たちのボールを抱えながら祭壇を出て行った。


「グズマ……!!」



* * *



 グズマが目を開けると、空はすっかり暗くなっていて、もう日が暮れていた。つい何時間か前は、まるで鏡のように空の青を映していた海は、今は夜空を映して真っ暗に揺らめいている。泳ぐグソクムシャを眺めながら過去に思いを馳せている間に、随分と時間は経っていたらしい。


「グソクムシャ」


 グズマが声をかけると、水中にいたグソクムシャがすぐさま水面に顔を出し、グズマのもとに戻ってきた。海から陸に上がる最中、甲冑のようにも見える甲殻の部分が、ガシャンガシャンと音を立てている。心なしかスッキリしたような濁りの無い眼をしていたので、グズマは小さく笑みを浮かべた。


「気持ちよかったか?」


「ギッ」


「…たまには、一緒に歩くか」


「! ギィ!」


 グソクムシャが入っていたモンスターボールを仕舞いながらそう言ったグズマに、グソクムシャは喜んでいるような反応を見せた。その様子に笑いながら、グズマは腰を上げて服についた砂を払い、ゆっくりと歩き始める。グソクムシャはその後を、ガシャンガシャンと甲殻同士が擦れる音を立てながら、歩いて付いていった。
 グソクムシャと一緒にゆっくりと歩きながらポータウンに向かっていると、その最中に雨がぽつぽつと降ってきて、次第に雨脚が強くなっていった。山沿いは雨が降りやすいので、ホクラニ岳のほぼ真隣にあるポータウンも同様だと、いつだったか誰かが言っていた気がする、などとグズマは考えた。雨に濡れる白い門を抜け、明るい色のペイントで落書きされつくしたポータウンへ足を踏み入れると、グソクムシャは途端に立ち止まった。


「どうした、グソクムシャ?」


「グゥン…」


「…腹でも減ったか?」


 グズマがそう尋ねても、グソクムシャは立ち止まって項垂れたままだ。グズマはグソクムシャと目を合わせて、グソクムシャが何を考えているのか、図り取ろうとする。むしタイプのポケモンは、他のタイプに比べて表情がわかりづらい。そもそもポケモンの言葉と言うものは人間には理解できないし、逆も然りであるので、どちらにせよ眼や態度、声のトーンなどから察するしかないのだ。


「…まさか、まだ泳ぎてえとか言うなよな」


「ギ?」


「どうしたってんだよ、ったく…。もう屋敷はすぐそこ…」


「まだキミと一緒に歩いていたいんじゃない?」


 夜の暗がりには似合わぬ朗らかな声が聞こえてきて、グズマは思わずビクッと肩を跳ねさせた。
 声の聞こえてきた方へ振り返ってみると、ポケモンセンターの扉の前にエルが立っていて、ニコニコとした笑顔を浮かべながらグズマとグソクムシャを見ていた。その手には『CLOSE』と書かれた札があり、どうやらカフェの閉店準備をしていたらしい。別に後ろめたいことがあるわけでもないが、グズマは何故だか恥ずかしくなってきて、咄嗟にそっぽを向いた。


「な、なんだよテメェ! まだ店仕舞いじゃなかったのかよッ!」


「ウチは11時開店、22時閉店なんだよねえ。ま、他のポケセンカフェは人がいるから、24時間営業だけど」


「クソッ、テメェの面なんざ見たくもなかったのによ! グソクムシャ、帰……」


「まーまー、そう言わずにちょっと寄ってかない? 最近エネココア飲みに来てなかったでしょ。それにイイものがあるからさ、ちょっとおいでって、ねっ」


 エルはそう言うと雨の中に飛び出してきて、逃げようとするグズマの腕を引っ張って、ポケモンセンターの中へと連れて行く。グズマは抵抗しようとしたが、このエル、細身にも関わらずとんでもない剛腕の持ち主で、掴まれた手を全く振りほどくことができなかった。無理やり連行されていった主人を追って、グソクムシャもポケモンセンターの中へと入っていく。
 ポケモンセンターの中には床のゴミ拾いに勤しむマーシャがおり、グズマのグソクムシャを見るなり「きゅうっ!?」と怯えたものの、グソクムシャが挨拶をするようにぺこりと頭を下げると、つられてへにゃりと頭を下げた。


「ほら、この間。せっかくわたしのために色々してくれたのに、余計なこと言ってグズマのこと怒らせちゃったでしょ」


「だから違えっつってんだろ、アレは別にお前のためにやったんじゃなくてなァ…!」


「だからさ、グズマとそのポケモンたちに、お詫びしようと思って。じゃじゃーん!」


 グズマを無理やりカウンター席に座らせ、バックヤードに引っ込んだエルは、冷蔵庫からあるものを取り出してグズマとグソクムシャの前に掲げた。それは、他所のポケモンセンターカフェなどでサービスとして配ることもあるハートスイーツ、それと同じハート型の箱に入った、丸いチョコレート菓子だった。


「んだよ、ハートスイーツかよ」


「大人の、ね。ウィスキーボンボンっての、食べたことない?」


「……ねえ」


「いやさあ、グズマの好きなエネココアの隠し味に入れてる、ラム漬けブランデーあるじゃない? あれで同じの作ってみようと思って、参考用に取り寄せてみたんだよね〜。これ何と、ポケモンも食べられるようになってるんだってさ!」


 エルはニコニコと笑いながら、グズマにぐいっとウィスキーボンボンの入った箱を差し出す。受け取れと言わんばかりに押し付けてこられ、グズマは渋々といった様子で受け取った。チョコレートの甘い香りに誘われ、グソクムシャが箱の中を覗き込んでくる。


「…食うか?」


「グォン!」


「…ははっ、お前は本当に食い意地張ってんな。ホラ」


 チョコレートをじっと見たまま目を離さないグソクムシャに、グズマはエルの前だということも忘れて、薄く笑った。グズマはその大きな手で、親指ほどの大きさのチョコレートをつまみ、グソクムシャに向かってぽいっと投げる。グソクムシャは器用にそれをキャッチして、口の中へ放り込んだ。すると、余程美味しかったのか、キラキラと瞳を輝かせて二対の爪を高々と掲げ始めた。


「ギィ…!」


「うまいか?」


「ギッ、ギ!」


「ふふっ、そうでしょうそうでしょう! 他のポケモンたちにもあげなよ、グズマ」


「うるせえな、そうするところだってんだよ! アリアドス、アメモース、カイロス!」


 グズマはポケットの中から3つのモンスターボールを取り出し、それぞれ手持ちのポケモンたちをボールから出した。3匹が3匹ともバトルだと思ったのか、意気揚々と爪やツノを振り上げ、羽を羽ばたかせている。その様子にマーシャは少しだけ怯えたものの、エルは小さく笑った。


「負けん気の強い子たちだねぇ」


「笑うんじゃねえよ! …お前ら、今日はバトルじゃねえんだ。とりあえずまあ、これ食えや」


「「「キィ?」」」


 グズマが差し出したチョコレートを、3匹とも不思議そうに見つめる。やがておずおずとチョコレートを取って食べると、やはりグソクムシャと同じように瞳を輝かせ、甲高い鳴き声を上げた。その嬉しそうな様子に、ほんの少し怯えていたマーシャも、満足げな眼でエルを見上げてくる。


「ふふ。美味しそうにしてるポケモンの姿は、いつ見てもイイもんだねぇ、マーシャ」


「きゅ〜」


「ほら、グズマも食べたら? これホント美味しいからさ、食べて損はしないと思うよ?」


「…俺はいい。こいつらがよけりゃ、それでいいんだよ」


 グズマは自身の手持ちポケモンを見つめながら、エルが驚くような柔らかい声を発した。エルには背中を向けたままだったが、その表情はきっと、まるで親が子を見守る時のような、優しい顔をしているのだろうとエルは思う。グズマは不良だし、善良とはとても言い難いが、それでも自身の手持ちポケモンに対する愛情は、確かだった。
 と思ったのもつかの間。グズマはすくっと立ち上がって、いつものメンチを切るような表情で、エルに振り返った。そして、先ほどとは打って変わって低い声で、こう告げた。


「その代わり、エネココア淹れろ」


 そう言うなり、恥ずかしそうにふっと顔を逸らしたグズマに、エルは思わず吹き出しそうになった。グズマも人の子である、子供ではないとはいえ、やはりまだ大人ではないのだ。


「はい、かしこまりました! お代は198円になりま〜す」


「閉店中だろ、さっき『CLOSE』の札出してたじゃねーか」


「むっ、そういうこと言う!? ほんともー、悪ガキだなキミたちは〜!」


 ぷんすかと怒ったような素振りを見せながら、それでもエルはエネココアの準備をしに行く。グズマは振り返って、チョコレートに夢中になる自分の手持ちたちを見た。4匹はエルのポケモンであるマーシャにもチョコレートを分け与えて、和気あいあいと鳴き声を上げている。4匹とも喜んでいることがその眼からわかって、グズマはふっと微笑んだ。


(キャプテンが何だよ、あんなくだらねえモン。オレにはこいつらがいる。こいつらさえいりゃあ、それでいいじゃねえか)


 グズマはふと、自分の拳に目を向けた。昨晩、かつて見た夢が完全に断たれたという事実に、どうしようもない苛立ちを覚え、あらゆるものを破壊し続けた手だ。拳にこびりついた血は既に洗い流し、傷も塞がりつつあった。新しい傷や古傷だらけのその手は、とても綺麗な手とは言い難いが、だからこそこの手で気に入らないもの全てを壊すことができる。


(ブッ壊してやる、このアローラの古臭え因習なんか。そしたらまたここに来て、こいつらに美味いモンでも食わしてやる)


 今のグズマにとっては、その手の中にあるものだけが、全てだった。










どこの誰が
本当に しあわせなんだろーか
冷たいヤな奴も
体だけはあったかいだろーや
一体あれは何だったんだろーか
いつまでも おぼえている
クサリながらおぼえてる




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