ばんがい | ナノ


▼ あなたが泉に落としたのはこの綺麗なミス・ヘイヘですか?

その日はいつもと何ら変わりない、ごく普通の日だった。相変わらず隣の部屋の薬中は意味不明な言葉を叫んでいるし、上の部屋に住む娼婦が接客中なのか天井からギシギシと軋む音がなっていた。そう、特におかしなところもない、いつも通りの1日になるはずだった。とある友人が嵐の様に押しかけてくるまでは。


ドタドタドタドタ…


「ハァイ、メル! 朝起きたらあたし、とんでもない美女になってたわ!」


……そう、嵐の様に。










あなたが泉に落としたのはこの綺麗なミス・ヘイヘですか?









「…それで、朝起きたら顔に負った傷が全て無くなっていて、とりあえず何かしら知っていそうなボンゴレ本部に行ったと…」


「うん」


「ところがボンゴレが敵対マフィアの対策会議で忙しそうだったんで、俺たち暇なヴァリアーのところに来た、と…」


「ひょうほ。るっふーほははりひょうらい(そうよ。ルッスーおかわりちょうだい)」


「あらあら、ミスったらこれで5杯目よ〜」


「う゛お゛ぉぉい!!! 俺たちは摩訶不思議現象専門家じゃねえんだよぉぉぉっ!!! あとミス、ヴァリアー本部はレストランでもねえんだよぉぉぉっ!!!」


メルとローザはヴァリアー本部である古城へ来ていた。何故かというと、ローザに起きた謎の現象について調べるためだ。
ある朝、ローザが目覚めるとやけに視界が広いことに気づいたらしい。いつもは鏡など見る気すら起きないので見ることはないのだが、何年かぶりに鏡を覗き込んでみるとオードリー・ヘプバーン似の女がいたので大層驚いたと言う。ローザの顔は数々の死線を潜り抜けてきた際にいくつもの傷を負っており、もはや元の面影が見当たらなくなっていたほどだった。しかし今では、傷もなければシミもくすみも皺もない真珠のような肌に美しいブルーの瞳、形のいい鼻と唇がこれ以上ないと言ってもいいぐらい完璧なバランスの造形をかたどっていた。つまるところ、世界一と言っても過言ではない美女になっていたのだ。


「いや、今まで大口開けてものを食べると火傷が引き攣れを起こして痛かったらしくて…。それがなによりのストレスだったらしくてさ。いつもの行きつけのレストラン、今日定休日だったから」


「そのこととわざわざヴァリアー本部であんなアホみてえな量の飯を食べることは何一つ関係がねぇよ!!」


「いいじゃないスクちゃん、こんなにがっついて食べてくれれば私も作り甲斐があるわ〜♪」


「ふう。あー久しぶりに大口開けて食べれたわ。綺麗に脳天に穴を開けたときみたいにスッキリしたわね」


「…ローザ、あんたってそんな感じの女だったっけ」


顔が元に戻ったローザはメルの目から見るに、ものすごくはしゃいでるように見える。実際、いつも覆面の下に隠されていた喜怒哀楽の表情が何の遮りもなく見えるのだ。楽しければ笑い、ブチ切れれば怒りの表情を見せる。己の感情のままにコロコロと表情が変わるローザの姿は、いつものものとは全く違っていた。現に今は、見る者全てが恋に落ちそうな笑顔を見せている。


「少なくとも死ぬ気の炎の影響ではないみたいだなぁ。幻術の影響とも思えねえが、その辺はマーモンに聞かねえとはっきりとしたことはわからねえぞぉ」


「あらそう。可愛い坊やがキャンディー1本で応じてくれればいいけど」


「誰が坊やだい。そうだね、ざっとキャンディー30年分で応じてあげるよ。もちろん現金に戻してからね」


話を聞きつけたのか金の匂いを嗅ぎつけたのか、マーモンがローザたちのもとへやってきた。ちなみにキャンディー30年分は1本100円と考えても大体100万円くらいである。そこそこ大金を何の悪びれもなく請求するマーモンにローザはため息を吐いた。


「欲しがりな坊やねぇ。仕方ないわ、おまけにチョコレートもつけてあげる」


「言ったね、明日までに僕の口座に振り込んでよ。言っておくけど今の録音してるからね」


「女はマネーとダイヤモンドのことに関してだけは正直なの。安心して頂戴」


マーモンは満足げに頷いて、集中してローザの顔を睨む。幻術での干渉を試しているのだ。これでローザが元の姿に戻れば今までのローザの顔は幻覚だったということになる。しかし、場に沈黙が走って少し経つと、マーモンが気の抜けた声を洩らした。


「ふぅ。どうやら幻術でもないみたいだね。僕の幻術が干渉できないのだから」


「幻術でもなければ死ぬ気の炎でもない…。一体なんの力なのかね」


「別にこのままでもいいじゃない。せっかく傷が治ったんだから」


ルッスーリアがローザの顔をまじまじと見つめながらそう言った。そう、このままでも何ら問題はないのだ。むしろ傷が治ったのだから喜ぶべきなのかもしれない。しかし、ローザにとってはそうではないのだ。


「嫌よ。あの傷はあたしの過去よ。あの傷がなければ今のあたしはあたしではないことになる。視界が狭まろうが大口開けてものが食べられなかろうが、あの傷も含めてミス・ヘイヘなのよ」


殺し屋としてのプライドか、自分の人生に対するプライドか、ローザは元の顔に戻りたがっていた。顔の右半分を痛々しいケロイドに覆われ、右目の瞼の神経が死んで右目が使い物にならなくなり、鼻が半分削げ落ち下唇が切り落とされ、その顔のほとんどが原型を為さなくなってしまっても、ローザは決して屈しなかった。その傷を背負い、生きていく決心はとうの昔についているのだ。


「…と言っても、原因がわからなければ対抗もできない。ひとまずはその顔で過ごすしかないね」


「う゛お゛ぉい、メル。日本にいるドクターシャマルを呼んでおいてやるよ。イタリアに着き次第連絡するから本部の方に来い」


「悪いね、スクアーロ君。そういうわけだからローザ、しばらくはスター気取りで街を歩きなよ」


「…それは嫌ねぇ」


こうしてミス・ヘイヘことローザは再び鏡を気にする生活を送るようになるのである。












おまけ
ローザinルパン三世。主に次元との絡み。


「ありゃま〜見違えたぜミス・ヘイヘ。そんな別嬪さんなんだったらもうちょっと紳士的に接しとくんだったなぁ」


「安心してルパン、あなたは十分紳士的だったわ」


「うひゃひゃひゃ、こんな美人にお褒めに預かり光栄の極み」


「おーい、ルパン。弾買ってきたぜ…って誰だそこの女」


「お、次元!いいところに来たなぁ。こちらさん、なんとあのミス・ヘイヘだとさ」


「ミス・ヘイヘだぁ?いつもの覆面はどうした」


「つける必要がないから取ったまでよ。あなたは常日頃からコンドームをつけてるの?」


「こりゃ失敬。しかし、参ったな…」


「・・・・・・?何が参ったって言うのかしら」


「俺は女を口説くのが下手なんだ」


「…あら、奇遇ね。実はあたしも、男を落とすのが下手なの」


「あららら〜…。もしかしてこれ、俺おジャマでしたぁ?」







つづかない。
管理人は10万hit記念を書いてから次元×ローザ押しです。

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