口に戸は立てられない


 出会った時にすでに気がついていたのだが、雄英高校1年A組の爆豪勝己くんはミルコさんに大変よく似ている。勝気な性格、すぐ手(脚)が出るところ、笑い方、口の悪いところ。あげればキリがないし、もちろん似ていない面もあるわけだが、なによりもヒーローとしてのタイプが似ていた。ひたすらに強さを求めるストイックさが二人にはある、と思う。だから私はルミちゃんが好きだし、爆豪くんのことも気に入っていた。まあ、仲良くできるかは別として。

「はい、爆豪くん」
「おー」

 ……なんて杞憂はついさっき終わった。私たちはなぜか並んでキッチンに立ち、なぜか一緒に料理をしている。部屋には麻婆豆腐のいい香りが立ち込めており、まだかまだかとミルコさんがソワソワした様子で待っていた。

「テメェら皿運ぶぐらいしろや!!」
「う、うん!もちろんだよかっちゃん!」
「めっちゃいい匂いする〜!」
「ハム子早くしろー」
「ミルコさんもお手伝いして!」

 麻婆豆腐一品だけじゃ栄養バランスが偏るからとほかの料理も作っていたら、こんな時間になってしまった。それでもテキパキと要領よく進められたのは、思った以上に爆豪くんが料理慣れしているからだった。焦凍くんが言っていたように、彼は大概のことはこなせてしまう器用な人なのだろう。料理に至っては絶対ルミちゃんよりできる。
 爆豪くんのことを教えてくれた当の本人である焦凍くんは、今この場にいない。現在、私たちはチームアップミッションの真っ最中である。学校の垣根を越えて、仮免取得済みの生徒とプロヒーローがチームアップを行うというこの新制度。ミルコさんと私の元に来たのは爆豪くん、緑谷くん、麗日さんの三人だった。彼らの高い能力で早々に事件を解決した三人を寮まで送り届ける途中、ミルコさんに「腹減った!」と言われたのが今回の事の発端だった。

「時間あるし、ハム子お前作れ」
「どこで!?」
「お前んち」

 そんな無茶振りなと思ったが、ぐぅと麗日さんのおなかから可愛らしい音が聞こえて、思わず「腕によりをかけます」と言ってしまった。ちくしょう、可愛いってずるいなぁ。何作ろうかな、と考えていたら、なんと爆豪くんの方から「辛ェの」と言ってきた。彼がそういうワガママ言う子だとは思ってなかったから、これまた思わず頷いてしまって、とりあえず家に着く前にスーパーで大量の鷹の爪を買ってしまった。
 メニューは麻婆豆腐、餃子、中華サラダ、中華スープ、ご飯。デザートは買ってきた杏仁豆腐。とりあえずで作ったにしては中々上出来だ。というのも、ほぼ全て爆豪くんが手伝ってくれたからである。「テメェの食いたいもんぐらいテメェで作るわ!」と言われてしまったからお願いしたのだが、どうやら自分からリクエストした手前、手伝わないという選択肢はないのだと言いたかったらしい。これは緑谷くんに教えてもらったから間違いない。
 この人数ご飯を食べるには我が家のダイニングテーブルは狭い。テレビ前のローテーブルは彼らに使ってもらい、私とルミちゃんはいつもの食卓用の机で食べることにした。……のだが、爆豪くんが緑谷くんと同じ机で食べることを嫌がったため、ルミちゃんと場所を交換することになった。私の目の前に爆豪くん、ローテーブルにはルミちゃん、緑谷くん、麗日さんが座っている。

「今日はお疲れ様。簡単なものだけど、どうぞ召し上がれ」
「いただきます!」
「いただきまーす!」
「アス」

 緑谷くんと麗日さんが元気に挨拶をする横で、ルミちゃんは何も言わずに麻婆豆腐をかき込んでいた。爆豪くんも言葉にはしなかったが余程お腹が空いていたみたいで、黙々と食べ進めている。

「麗日さんと緑谷くん、辛さ大丈夫?」
「はい!めっちゃ美味しいです!」
「辛味もあるんですけどしっかりと旨みもあって、すごくご飯に合います!コクがあって、ひき肉は合い挽きかな……いい味出してますね!」
「飯まで分析すんなや!だからテメェと飯食べたくねンだよクソナード!」

 爆豪くんはそれだけ言うと、再びひたすらに食べ進めていた。いい食べっぷりだ。見ているこっちが気持ちいいし、ルミちゃんといい勝負ができる。それにしても食べる所作も綺麗だし、出されたものを文句も言わずに食べるあたり(まあ、リクエストしたのは爆豪くん本人だけど)、お母様がそういう教育をしているのだろうか。食べる手を止めてじぃっと見つめていると、爆豪くんは私の視線に気づいたみたいで「何見とんだ」と静かに言った。

「ああ、ごめんね。ずいぶん綺麗に食べるなって思って」
「こんぐらい普通だろ」

 綺麗に食べると言えば、焦凍くんもそうだ。彼の場合はお父様があのエンデヴァーだし、作法は厳しく叩き込まれていたのだろう。ハンバーガー食べる時ですら綺麗だったもんな……と友人である男の子のことを考えていると、ふと、爆豪くんが食べる手を止めて私に「なぁ」と発した。

「アンタのと別で作ったんか、これ」
「え?よくわかったね」
「俺のとアンタので明らかに色ちげぇだろ」

 実は、爆豪くんと他のみんな用で辛さを変えている。別に具材も工程もほとんど一緒だし、二度手間になったわけでもない。鍋を変えたくらいだ。でも、"自分が手間をかけさせてしまったこと"を爆豪くんは割と気にするタイプだったのだろうか。彼は思っていることが表情に出る方だと思っていたが、もしかしたら焦凍くんよりも分かりづらいかもしれない。たまに出る大人っぽい、というか大人しい表情からでは、まだ関係の浅い私では彼の気持ちを汲み取ることができなかった。

「いっぱい作ったからおかわりしてね」

 その言葉に返答はなかったが、結局爆豪くんは二回おかわりした。その上でまだ激辛な方は余ってしまって(爆豪くんの分だけ作ってたつもりが、なんだか気合いが入りすぎて多めに作ってしまったみたいだった。初歩的なミスである)、それらをタッパーに詰めて爆豪くんに手渡した。彼は遠慮していたみたいだが、私が「ルミちゃんも私も普段辛いの食べないもの」と言うとしぶしぶ受け取ってくれた。

「そのタッパー返さなくていいからね」
「は?返すわ」
「勝手に使ってくれてもいいし……あ、でも人の使ったやつは嫌だよね。やっぱり捨てていいよ」
「だから返すっつってんだろうが」
「じゃあ、焦凍くんに渡してくれれば……」
「俺が!!返す!!」

 うわ、顔すごい。「誰が半分野郎なんか頼るか」と怒ったように言いながら、彼はどかどかと雄英敷地内へと入って行った。その後ろ姿はどことなく、怒った時の幼馴染に似ている。その姿を見つめていると、こっそり麗日さんが話しかけてくれた。

「公星さん、猛獣使いかなにかですか?」
「え?」
「確かに……かっちゃんがあんなに大人しいの、僕も初めて見ました」
「緑谷くんまで」

 普段から猛獣が近くにいるからね。私の言葉に二人は納得したらしく、神妙な面持ちで頷いていた。というか、爆豪くんあれでおとなしいのか。彼の手の中で爆ぜた音がしていたような気がしたけど、気のせいだと思い込む事にした。





「おい、なんだこれ」
「あ、おかえりなさい、焦凍くん」

 寮に帰ってくるなり、焦凍くんは私たちを見て信じられないといったような表情を浮かべている。そんなおかしなことあったかな。と思い、頭を傾げて見るが思い当たる節がない。隣に座るかっちゃんに向き直って「焦凍くんどうしちゃったのかな」と言ってみるが、返事はなかった。二人とも仲悪いものね、しょうがない。

「そうだ、かっちゃんこれ食べる?美味しいよ」
「……」
「ピリ辛って感じらしいの。ミルコさんがCM出た時にもらったんだけど、あの人食べなかったから」
「……」
「かっちゃん辛いの好きでしょう?きっとお口に合──」
「だーーーっっっいらねェわ!つかかっちゃんて呼ぶな!!」

 私の差し出したお菓子を、かっちゃんは跳ね除けると怒ったように腕を組んでそっぽを向いてしまった。
 
「じゃあこっちは?激辛煎餅ハバネロデスソースペッパーXキャロライナ・リーパー味」
「……んだその頭の痛ェ名前は」
「辛いもの好きの間では有名でね。これもミルコさんがCMに出た時にもらったらしいんだけど」
「……」
「なんでも閻魔が自分の舌を切りたくなるくらい辛いだとか、痛覚を殴られたような辛味とか言われてるみたいで、食べることのできた人はごくわずかなんだって。……辛いもの好きのかっちゃんでも難しいかな?」
「あ?馬鹿にすんなや、食えるわ食ったるわ」

 組んでいた腕を解いて、かっちゃんは私からお菓子の袋を奪う。勢いよくそれを開けて口に放り込むと、一瞬黙り込んだのちにバリバリと噛み締めていた。気に入ったのか、もう一枚を求めて袋に手が伸びている。匂いだけでくらくらするぐらい辛いそれを、かっちゃんはわかりづらくも嬉しそうに食べていた。
 ふと、彼の頬に食べかすがついている事に気づいて指をそれをとる。案の定かっちゃんは「あ!?」と叫んでた嫌がったが、私がそのあと何も言わなかったせいか特に暴言を吐かれることもなかった。素直じゃないなぁ。まあそんなところも可愛いものである。

「なまえさん……」
「ん?」

 焦凍くんは相変わらず、ソファーに座る私たちを見て呆然と立ち尽くしている。どうしたんだろう、なにか変なことしたかしら、私。
 耐えかねたのか焦凍くんは緑谷くんに声をかけると、彼らはひそひそと話し始めたが、私にはよく聞こえなかった。友達同士の内緒話かぁ。まだ彼と知り合ってなかった頃、二人の仲はそんなによくなかった……というか、主に焦凍くんが孤高すぎて周りに馴染む気がなかったのだとクラスの子たちから話に聞いた。だから、彼がこうして友達と呼べるクラスメイトがいてその子と仲良さそうにしてるのは嬉しいものがある。なんて、少しおばさんくさいかな。

「何があった?緑谷」
「それが……で、そのあとにかっちゃんが……──」

 まあいいや、今は隣にいるかっちゃんとお話をしないと。
 チームアップミッションからしばらく会っていなかった彼は、どうやら変わらずストイックさを貫いているらしい。その証拠に、激辛煎餅を2枚ほど食べたあたりでその袋の封を閉じようとしていた。

「お水いる?」
「別にいらんわ」
「そう?とりあえずここに置いとくね」

 熟年夫婦だ、なんて言う緑谷くんの言葉には何も反応しないでおく。恋人同士にそんなこと言うなんて失礼しちゃう。

「おい、ネズミ」
「なに?」
「テメェ用事済んだならはよ家帰れや」
「え?」
「ミルコんとこ戻って仕事しろ」
「仕事?もう終わらせてきたよ?」

 私の言葉にかっちゃんは黙り込む。

「だから今日はかっちゃんの相手するって決めたの」

 私がにこりと笑うと、かっちゃんはなんとも言えないような顔をして、隣にいる焦凍くんは文字通り凍っていた。……だから、なんで焦凍くんはそんなにびっくりしてるんだろうな。私そんなにいつもと違うかしら──と普段の行動を振り返る。
 そういえば、かっちゃんの言う用事ってなんだっけ?そういえば私、どうしてここにきたんだって。机の上のタッパーを見て、少し前のことを思い出す。ああ、そうだわ。確かかっちゃんに貸していたタッパーをもらいにきて、それからついでに焦凍くんに会いに……と、考えたところで頭が痛み出す。

「……なまえさん?おい、」

 いや、恋人であるかっちゃんに会いにきたんじゃなかったかしら。あれ、そもそもかっちゃんって恋人?というかかっちゃんって誰だっけ。

「どうした、大丈夫か?」

 かっちゃんっていうのは、緑谷出久くんの言うところの爆豪勝己くんで。彼はただミルコさんの元にチームアップミッションのために来た学生さんで、焦凍くんとクラスメイトの──と、情報を整理していたが、突然プツリと思考が途切れる。ただ切れたのは思考じゃなくて意識だったみたいだ。ふわりと身体の力が抜ける。

「なまえさん!!……緑谷、医務室に連絡してくれ!」

 暗転。





 目が覚めたら見知らぬ天井があって、そして焦凍くんが心配そうにこちらを見ているなということはわかった。そんな彼の顔を見て、真っ先に口から出た言葉は謝罪の言葉だった。焦凍くんは優しく目を細め「別に気にしなくていい」と言うと、側にあった丸椅子に座り直したのだった。

「ここ……医務室?というか私、なんでここにいるかよくわからないのだけど……焦凍くん、教えてくれない?」
「さっきまでのこと、覚えてないのか?」
「うん、まったく」

 爆豪に貸したタッパーを返してもらうべく雄英に来たところまでは覚えている。看守さんに話を通して許可証をもらい、A組の寮に向かう道中でたまたまロードワーク中の爆豪くんに出会ったはずだ。そして爆豪くんが私を連れ寮へ戻ろうとしたのだけど──その後のことはよく分からず覚えていない。その旨を伝えると、焦凍くんはゆっくりと話し始めた。

「爆豪が言うには、そのあと通りがかった普通科の女子がくしゃみした弾みに個性を暴発させたらしい」
「暴発?」
「ああ。すげぇ音がして、モヤみたいなのが出て爆発みたいだったとか……それにビビったなまえさんが、咄嗟に爆豪を庇ったそうだ。これはその女子が言ってたことだけど」
「ああ、じゃあそれで私は倒れたってことかな」

 その爆発の威力がとんでもなかったか、それか音にびっくりしたかは不明だけど。私はあまり大きな音が得意ではないし、後者でも全然あり得る……というか、もしそうだとしたらここに連れてきてくれたのは爆豪くんかその女子生徒かもしれないということだ。もしそうならば申し訳ない。
 そう思っていると、焦凍くんの口から出たのはもっと驚くべき真実だった。

「いや。なまえさんはそれで倒れたわけじゃない」
「え?」
「なんでもその女子の個性が惚れ薬みたいなヤツだったらしい。体から発生する煙を嗅いだ直後に見た人のことを恋人だと錯覚する……とか、なんとか」
「……」
「それでなまえさんは、爆豪のことを恋人だと錯覚したんだ。まあでも錯覚だからな。本人が気づけば解けるようなモンらしいんだが、個性を解く際に脳に負担がかかるとかで……オーバーヒートで倒れたんじゃないかってその女子は言ってた」
「ちょっと待って」

 焦凍くんに手のひらを向けてストップを要求する。想定外の事実と急展開に話を止めざるを得なかった。焦凍くんは首を傾げつつも閉口している。
 つまりなんだ。私は(個性事故とはいえ)爆豪くんのことを恋人だと思い込んだってこと?焦凍くんは何も言わなかったけど、記憶のない間そういう風に振る舞ってしまったってことじゃないの?爆豪くん相手に?うわ、うわぁ……。

「爆豪くんに合わせる顔がない……」
「別に爆豪も気にしてないと思う。事故だってのは、あいつがよくわかってるだろ」
「本人が気にしてなくても私が気にするわよ……爆豪くんにもし恋人がいたら、その方にも申し訳ないし……!」
「悪ィ、そこまでは俺もよくわからねぇ」

 二人でうんうんと唸っていると、リカバリーガールがやってきて「あんたたちもう元気になったなら出ていきな!」と焦凍くんともども追い出されてしまった。歩きながら引き続き頭を抱えていると、焦凍くんは私を見てくすりと小さく笑う。その姿に思わずムッとすると、彼は笑いを隠さずに「悪ィ」と言った。

「何かおかしいことでもあった?」
「いや、なんか嬉しかったから」
「嬉しい?」
「ああ。さっきまでのなまえさんはなんとなく、違う人みたいだったから。今のなまえさんはちゃんといつものなまえさんだと思って、つい」

 そんな笑っちゃうほど別人だったのかなぁ。恥ずかしさと申し訳なさで凹んでいると、焦凍くんはまた小さく笑った。今日の彼は、いつもと比べるとゲラらしい。

「前に、もしなまえさんに恋人や家族ができたら、ミルコと今まで通りは暮らせないって話したよな」
「え?ああ、うん。したね」
「もしそうなったら……ミルコだけじゃない。俺も、多分なまえさんとは今まで通りにはいかないんだなって思っちまった」

 つまり焦凍くんが言いたいのは、私にもし恋人ができたのならもう二人では遊べないのではないかということらしい。たしかに異性愛者である私が、異性である彼と二人きりというのは、恋人(存在しない)からしてみれば気のいいものではないだろう。まあ、私ももし恋人(存在しない、断じて)が知らない女の人と会ってたらヤキモキするかもしれない。いくら友達だと言われても、異性である限りは世間的には安心材料にならないのだ。残念なことに。

「でも、私は恋人もいないし結婚したいとも思ってないから大丈夫だよ」
「わかんねぇだろ。俺の親父だってあんなんだけど結婚してんだから」

 相変わらず焦凍くんはお父様に辛辣だ……じゃなくて。

「私は絶対結婚しないよ」
「なんで言い切れるんだ」
「私の個性ハムスターでしょう?多分人より早く死んじゃうと思うから、どうにも結婚しようとは思えなくて……相手が可哀想じゃない」

 焦凍くんは少し考え込んだのちに控えめに頷いて、「……じゃあなまえさんとは、ずっと友達でいれそうだ」と言った。焦凍くん本人が結婚するかもしれないことは考えていないらしい。まあ彼女もまだいないみたいだし、そこまで考えが至らないのだろうなとは思うけど。
 二人で校舎を抜け、寮へと向かう。こうやって二人並んで歩くことができるのも、ちょっとした奇跡なんだろうと思う。世界が平和で、私たちが友達だからできることだ。
 寮に再び入ると、共用部にはだれ一人いなかった。休みだと言うのに珍しい。置き去りにされた荷物を回収して中身を確認する。本来の目的であるタッパーは綺麗に洗われた状態で入っていた。

「じゃあ焦凍くん、今日はあり──」

 ありがとう。そう言おうとした瞬間、女の子たちの「突撃!!」と言う声と身体への衝撃に、私は最後まで言葉を紡ぐことはできなかった。

「え、え?何、なんなの?」
「公星さん!!爆豪と付き合ってるってほんと!?」
「え、いや、」
「なのに轟くんと歩いてるってことは、もしかして二股!?」
「ちが、」
「それとも爆豪くんはカモフラージュで轟くんが本命!?というか、その逆もあり!?」
「話をきいてっ……」
「それか、お二人の取り合いという可能性も……?この前、芦戸さんが貸してくださった少女漫画にありましたわ……!!」

 八百万さんの言葉にA組の女の子たちは「あり得る!!」と声を揃えた。あり得ないよ、と呟いてみるも、みんな盛り上がってしまって聞こえていないみたいだった。焦凍くんは巻き込まれたくないのか、彼女らの言葉の意味がよくわかっていないのか、少し離れたところで口をぽかんと開けて呆然と突っ立っている。恋愛話に飢えた女子高生らにもみくちゃにされながら、私は思う──やっぱり二人で静かに歩いていた時間は奇跡だったんだなぁ、と。


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