拝啓
 秋空が高く澄み渡り、秋の訪れを感じる季節となりました。いかがお過ごしですか。
 この手紙は誰でもない、あなたに宛てます。
 呪術師として働き始めた際、私は諸先輩方に遺書を書くようにと仕切りに言われました。学生時代はその教えを軽んじていましたが、灰原が死に、何も残っていないことに私は気づいてしまいました。それから毎年、季節が変わるたびに遺書を書くようにしています。今年で何枚目になったかは数えていません。しかし、何回季節が巡ろうと、書くことはただ一つ。私の妻のことです。
 妻の身体は神に呪われています。17歳の時に呪われ、幼児の身体にされた彼女は一向に戻る気配を見せず、11年が経とうとしています。私は術師に戻ると決めた時、同時に彼女の身体を元に戻すと決めました。神の呪いはそう簡単なものではないと分かってはいましたが、私の人生の全てを賭けても呪いを解くつもりでした。しかし、この手紙が読まれているということは、解呪することなく私は死んでしまったのでしょう。
 私は彼女と過ごした12年を、大変幸せだったと言えます。姿が変わろうと彼女は彼女に違いなかった。それでも、ずっと呪われていた彼女は幸せだったのだろうか。それだけが、心残りです。
 本当ならば私が解くべき呪いだった。呪いを解いたら術師をやめて、日本ではないどこかの国の海辺で二人で過ごしたかった。海辺のチャペルで式をあげて、彼女の憧れていた、レースをたっぷり使ったドレスを着てもらおうとずっと考えていたのです。きっと、彼女によく似合うだろうから。しかし、それも叶わぬものとなってしまったのでしょう。
 この際五条さんでも誰でも良い。彼女の呪いを、私の代わりに解いてはくれないだろうか。一人遺してしまった彼女のことを、どうか自由にしてあげてほしいのです。
 この手紙を、誰かが見つけてくれることを望みます。術師の世界は大変ですが、命を大事にしてください。
 末筆ながら、ご自愛のほどお祈り申し上げます。
敬具

  2018年10月17日
七海建人


追伸 妻をよろしくお願いします。








×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -