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▽来葉峠から少し経った話、全然甘くない


 俺と赤井さんは上司と部下の関係。歳が離れているし、彼は俺にとっては直属の上司だったので他の同期たちにするのように馴れ馴れしく接することはなかった。それでも同じFBIの所属しているので、一緒に仕事をすることはあった。それが例の黒ずくめの組織、俺は赤井さん同様に偽名を使って組織に潜り込んでいた。そして「カシャッサ」というコードネームを貰って赤井さんこと諸星大、ライの部下として奴らの信用を少しずつ得ていた。

「カシャッサ」

『なんですか?諸星さん』

「ここではコードネームで呼び合えと言っただろう」

『あ、はい、ライさん』

「まったく…お前は優秀なのにどこか抜けているところがあるな」

 実は赤井さんと一緒に仕事をするのはこれが初めてだった。なのでこんなにも同じ時間一緒にいて話すことすら初めてだったので最初は緊張したことを覚えている。俺は赤井さんには「目付きが悪くて常に目の下に隈を作っていた仏頂面の人」という印象しかなかったけどいざ話してみると、たまにだが冗談を言ったり笑ったりもする。俺はそんな彼を見るのが好きだった。犯罪組織にダブルフェイスとして潜入するといういつ死んでもおかしくない状況の中、赤井さんの存在が唯一の拠り所だったし、彼と話しているときが一番落ち着くことができた。
 そんなとき、一人の捜査官のミスで赤井さんが裏切り者だと言うことが組織に気づかれてしまった。それが原因で赤井さんは組織を抜けることとなり、赤井さんの恋人であった宮野明美さんは組織に消されてしまった。俺はライの部下だったが、組織に入った時期が違うし組織に気づかれる原因となったあの場所にも行ってない。宮野明美さんともまったく交流がなかったことから疑われずに済んだ。最初の頃はジンの目が厳しかったが、FBI関係の人間との交流を一切経ち、ひたすら組織の信用を得るために行動し続けていたため、それもいつしか無くなっていた。
 組織の人間とのみ交流を持ち続け、FBI…赤井さんたちと連絡をもうしばらく取っていなかったので、俺が赤井さんの死を知ることが出来たのは少し後だった。

『…赤井秀一?』

「ああ、かつてお前の上司だったライ、諸星大の本名だ。奴はFBIの犬でな、来葉峠で奴が頭ブチ抜かれて死ぬのを俺も兄貴もしっかり確認しやしたから間違いないですぜ」

「お前はそんな男には興味ないか。赤井が組織を抜け、宮野明美が始末したときもお前は顔色一つ変えなかった」

『まあな、今までライという上司のもとにいたことも忘れていたくらいだ』

少し露骨かと思ったが、これくらいがちょうどいい。なにせ俺と赤井さんは普段ジンたちの前ではまったく会話をしなかったし、実際組織に疑われにようにFBIの存在をなるべく頭の中から外していたからだ。

「カシャッサ、最初は疑っていたあのお方も今はお前を信頼しているんだ」

『…俺が裏切るとでも?』

「そうは言ってない、ただお前も脳天ブチ抜かれたくなきゃ余計なことは考えるなよ」

 そう言ってジンとウォッカは俺の前から去った。
 一人になると自然に冷静になった。赤井さんが死んだ?とてもじゃないが信じられない。あの人は簡単に死ぬような人間ではない、組織での立ち振る舞いを一番近くで見ていた俺だからそう言いきれた。ウォッカの話では銃で頭を打ち抜かれた後、赤井さんの愛車であるシボレーとともに焼死体となったらしい。これだけ聞くと確実に死んだように聞こえるが、きっと赤井さんならなにか策を講じていたに違いない。俺はどこか確信めいたそんな気持ちを持たずにはいられなかった。




 俺はぼーっとしながら米花町を歩いていた。組織の仕事でたまたま来葉峠の近くに寄ったので、例の事件現場に赴いた帰りだ。車を近くの駐車場に止めて、考えを巡らせる。

『(ジンまでもが赤井さんが死ぬのを確実に見たと言っていた。あの用心深いジンをそう簡単に騙すことが出来るのだろうか、いや赤井さんなら…でも先日ジョディさんたちをバレぬよう尾行したときはとても悲しんでいる様子だった、あれはおそらく演技ではないだろうし…)』

 ここまで考えたときに俺以外に一人、組織内で赤井さんの死に疑問を持つ人間がいたことを思い出した。

『(そういえばバーボンとかいう男…たしかあいつも)』

 ドンッ
 曲がり角で誰かとぶつかってしまった。

「すみません、大丈夫ですか?」

『あ…はい、こちらこそすみません』

 たしかに俺は考え事をしていたし周りのことに疎かだっただろう。それでも一応FBIに所属しているし、犯罪組織に潜入している身、気配には人一倍敏感だったはずだ。それなのにぶつかって尻餅をついた俺に左手を差し出してくるこの目の前の男には気づけなかったというのか?

『あ、ありがとうございます』

 素直にその手を取って立ち上がり、何気なく目の前の男を観察する。身長は俺より高い、二十代後半といったところか、薄ピンクがかった髪の毛に細い目、眼鏡をかけており一見ただの優男だが、見るものが見れば彼の体がとても鍛えられていることはわかるだろう。

「過失の割合は50:50、と言いたいところですが今回は確実に君の非です。角から僕が曲がってくるのにも関わらず考え事をして気づかなかったのですから」

『え、あ、はいそうですね、すみません気をつけます』

「怪我がなくてよかった、それではまた」

『は、はい…』

 そう言って彼は俺と別れて歩き出した。俺はぼんやりとその背中を見送った。なぜか彼を見た時からもやもやとした感情が胸の中で燻り出したのを感じたからだ。

『(なんでだろう…初めて会った気がしない…それに彼は"今回は"と言ってた、俺は彼と初対面だったのに…)』




 それからなぜか米花町付近に行くと毎回のように彼、沖矢昴という大学院生に会うようになった。

『…あの、なんで俺の行くところに毎回いるんですか、沖矢さん』

「そんな人をストーカーみたいに言わないでくださいよ名前さん、たまたまですよ」

『…はあ』

 最初の頃は沖矢昴という男を疑って色々調べたが、特に気になるところはなかった。しいて言うならばジンが始末したという高校生探偵・工藤新一の家に居候しているということくらいか。それなのにも関わらず、なにかと彼に構われるようになってしまったのだ。

『(無理に拒否できないのはどこか赤井さんと似ているところがあるからなのだろうか…)』

「(名前とは組織にいたときくらいしか話せなかったからな、これを機にまた話せるだろうか)」



続くかも