ch2.密林の白昼夢






「失礼します」

やけに落ち着いた声を発して、ルカはテントの幕をくぐった。
テントに入ってすぐにルカの目に入ってきたのは、テント内に転がる数十個もの半透明な青色の空瓶、アルコール度数の強い酒瓶だった。そして、その瓶に囲まれるようにして座っている薄汚れた短い金髪をした親父が、陽気にニヤニヤと笑いながら、その血色の良い赤ら顔をルカの方へと向けた。明らかにこの男は酔っているのだろうとルカが確信するのに、一秒として時間はかからなかった。

この薄汚れた飲んだ暮れの親父こそが、<RED LUNA>の創始者にして、今までこの組織を秘密裏に動かしてきた男、デニス=パーヴロヴィチ=ヴィジマノフ、その人だった。ここ数日間続いている野宿生活のおかげか、ルカが久々に見るデニスのあごひげは、以前よりも濃くなっているように感じられた。

「おう、ルカじゃねえの。お前さん久々だねぇー、もう引きこもり生活には飽きましたってかぁ?」

ニヤニヤとした笑みを更に深めて言うデニスに、ルカは思わずポカンと口を開きそうになった。が、慌てて表情を引き締めると、唇を引き結び、ゆるりとデニスに向かって深く頭を下げた。

「すみませんでした、リーダー! 組織に多大な迷惑をかけた上に、自分の務めも果たさず帰還早々の報告義務を怠って……!」

ルカの喉は、搾り出すような謝罪の文句が次から次へと溢れでんとばかりに、ふるふると震えていた。それを見たデニスは、一瞬目を丸くした後、明らかにげんなりとした表情を浮かべる。
「おいおい、お前さん忘れたのか? 迷惑も何も、俺は酒飲んで慌てふためくアルフォンソをからかってただけだし、任務の報告を後にしろったのは俺だしよぉ。お前さんの意味の分からん謝罪はどうでもいいから、さっさとガロンのことでも報告しろっつーの、ったく」

これだから真面目な野郎は、とでも言いたげな口調でそう言いながら、デニスはだるそうに腰を上げ、中腰になって辺りに転がる酒瓶をテントの隅へと寄せ始めた。ルカは戸惑ったように恐々と顔を上げて、デニスの行動を不思議そうに見つめた。その視線に気付いたデニスは、口角を上げて微笑を浮かべた。

「まあ適当な場所に座れや。お前さんに起こったこと全部を報告しろっつっても、もうアルとアリサから大体の事情は聞いてるんでなぁ。ただ、お前さんがあのガロンと関わった時の状況だけがハッキリしねぇから、そこんとこだけ聞きてぇんだよ」

デニスのその言葉に、ルカは大きく目を見開いた。
いつの間に、自分が親の仇と接触を持っていたというのか? ルカには全く思い当たる節がなく、それゆえにデニスのこの一言は、大きな衝撃となってルカの身を貫いたのだった。






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