ch2.密林の白昼夢


ch2.密林の白昼夢



温かい日差しが差し込む、静かな渓流の地を進む二人の人影があった。一人は襟足だけが伸びた黒い髪を細く束ねた優男。そして、彼の隣に居るのは背丈の小さな赤髪の女性。その女性は不思議なことに、小柄な体格なのにも関わらずその腰に差してある剣は随分と様になっており、剣士としての威圧感をどこか雰囲気として感じさせる女性だった。

「随分と進んできたけど、大自然しか見えないな……」

黒髪の優男の方が疲れたようにそう呟くと、赤髪の女性は呆れたような表情を浮かべた。

「当たり前だろ、密林の地方なんだから。観光しに来た訳じゃないって分かってるよな、アル」

赤髪の女性が黒髪の優男、もといアルフォンソの脇腹を小突くと、彼はピンポイントで脇腹から突き刺さるような鋭い痛みに小さく呻いた。

「アリサ、さっきのはなかなかに痛かったんだが……」

表情を幾分か苦痛にゆがめたアルフォンソがそう訴えかければ、アリサは悪びれもせずに愉快そうに笑うだけだった。そんなアリサの様子に対して、まるで何かを諦めたように溜め息を吐くと、アルフォンソは遥か遠くを流れ行く穏やかな河川を眺めた。どこまで続いているのか定かではないほど遥か彼方まで、その河川は続いていくようだった。

「観光じゃないことくらい分かってる、言ってみただけさ。連日続きで偏狭な場所にばっかり任務に行かされてると、文明的なものも見たい気分にもならないか?」

疲れたように遠くを眺めながら言うアルフォンソに、アリサは一瞬ギクリと硬直した後、誤魔化すような苦笑を浮かべながら適当に生返事を返すことしか出来なかった。


それというのも数日前、アリサとルカが帝国の暗殺部隊と接触した一件が発端だった。

その事件でのバグウェル親子の悲劇はルカの精神に大きなダメージを与えてしまったようで、ルカは目覚めてからリーダーに任務の報告もせず、誰とも関わろうとせずに野営用のテントから一歩も外へは出て来ていない状態なのだ。
そんな状態のルカを普段から過剰に弟を心配する彼、アルフォンソに見せるわけにもいかないという<RED LUNA>のリーダーであるデニスの判断の元、アルフォンソはルカが目覚める前からアリサと共に各地の任務に立て続けに向かわされている。


今回のアルフォンソとアリサの任務は、帝国がホワイトバッファローウーマンに続き、"ゲデ"という怪人をR生物化しようとしているという情報の真偽を確かめることだった。

「ホワイトバッファローウーマンは手遅れだったけどよ、今回のことは帝国が動くよりも早く情報がつかめてんだ。絶対に失敗すんじゃねえぞ、アル、アリサ」

デニスは電話越しに、彼にしては珍しく鋭い声で、そう二人に指示を与えた。
了解の意を伝えた後、アルがルカの様子をデニスに聞くと、ルカは未だ寝ているままだと硬い語調で答えるデニスの声が電話口の向こうから聞こえてきた。アルフォンソは心配そうに眉をひそめて肩を落とし、全てを知っているアリサは、それを聞きながら無声音で細く長い溜め息を吐く。

これだけ自分とアルフォンソが任務という形で追い出されているというのに、もしもルカがあと数十日で精神的ショックから抜け出せていなかったら、この苦労も苦闘も水泡に帰すのだ。どうしてもそういった心配がアリサの心のどこかには潜んでおり、それを考えるだけで彼女の気は滅入る一方だった。

ふとアリサの右手が、腰にぶら下がる冷たい剣の柄に触れる。アリサは右手に伝わる剣の存在を確かめるように強く握ると、唇を強く結んだ。
自分が任務を達成するために振るったこの剣と、帝国の暗殺部隊の隊長である男・ガロンが振るった殺人の剣。同じように人を殺めてきた剣は、一体何が違うのか。一瞬だけ考えて、アリサは自嘲気味に小さく笑った。

「……斬るモノ、敵が違うだけか」







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