ch1.黒髪の兄弟





零時。アルフォンソとルカが頭上を仰ぐと、月がジワジワと赤色に変色していく。
急激に進む月の変色。月はおよそ一分ほどで真っ赤に染まり、すぐにR生物なる化物が赤く染まった月から降ってくる。これが一般的に赤月の日と呼ばれる災厄の日だ。


この現象は不規則に起こる上に、前兆がない。
よって、事前に赤月の日が訪れる時と場所を知ることは誰にも不可能なのだが、アルフォンソが知る中でただ一人、赤月の日の気配とやらを感じることが出来るという男がいる。
アルフォンソやルカが属す<RED LUNA>という組織のリーダーだ。

R生物討伐のためだけに活動する俺たちの組織は赤月の日にのみ活動するからか、いつの間にか<RED LUNA>と呼ばれるようになった。
その上、帝国側にもレジスタンス側にも俺たちの組織の情報を一切掴ませていないから、噂だけの伝説のヒーロー組織になってしまっている状態だ。
どこの都市伝説だ。そうぼやいて爆笑するリーダーのデニスという男の顔が、アルフォンソの脳裏に浮かぶ。

アルフォンソの知る中で唯一、赤月の日の起こる時と場所を事前に察知することが出来る謎多き人物、それが<RED LUNA>の創始者にしてリーダーであるデニスだ。


赤く染まっていく月を見ながら、アルフォンソの胸がサワサワと静かに騒ぎ立て、鼓動が次第に早くなるのを彼は理性で抑えようとした。過酷な生い立ちからか、過去何度も経験した、いわゆる嫌な予感というやつだった。

すぐ近くの村から人間達の悲鳴が聞こえる。どうやら彼らは今夜が月の変色の日だと突然知って騒いでいるらしく、ワーワーキャーキャーと叫ぶ声が山奥にいるアルフォンソとルカにまで届いていた。
その悲鳴を聞いて、理性では抑え難かった自分の感情が、不思議と落ち着くのをアルフォンソは感じた。嫌な予感なぞに振り回されていては駄目だ。大事なのは、何においても結果だ。俺たちがR生物を倒さなければ、多くの人間が殺されてしまう。そう心の中でつぶやき、アルフォンソは静かに胸で暖めていた息を吐いた。

そんな彼の隣ではカチャリという無機質な音が聞こえ、アルフォンソが横目で見ると、ルカが短銃をホルダーから抜いて軽く銃弾の確認をしている様子が目に入った。
見る限りでは弟のルカは至って冷静な様子で、いつの間にこんなにたくましくなったのだろうかと、アルフォンソは少し寂しくなる思いに蓋をした。

「来るかな」

ルカの呟きにアルフォンソは静かに頷く。
瞬間、ジワジワと進んでいた月の変色が静かに止まった。そして一瞬の静けさのあと、一気に月が真っ赤に光った。キュウゥ、と何かが締まるような高音が世界中に響き渡る。赤く光る豆粒程の何かが、赤い月からこぼれてゆっくりと地上に向かって落ちてくる。
まだどこに落ちるのか、落下地点は定かではないが、間違いなくアレは此処に落下するだろう。さもなくば、暇人でもない俺達がこんな偏狭な山奥に待機している意味がなかっただろうと、アルフォンソは内心で苦笑を浮かべた。

警戒心を保ちながら慎重に様子を伺っているルカを見て、大丈夫そうだなとアルフォンソは弟に対する心配を和らげた。場慣れした、という曖昧な自信によって警戒を無意識に解いた者ほど戦場で凄惨な死を遂げていくことを知っているからこその心配だった。

今回の作戦は、あくまでルカが闘い、アルフォンソは基本的に手出しするな、との事。
ルカの意志だかリーダーの意志だか、はたまた第三者の意志か。想像もつかないが、構成員とはいえ弟が傷付くのを黙って見ているなんて、本音を言えば納得いかない。

だが今のルカを見ていると、今は任務中なのだと、組織の幹部であるアルフォンソの方が再認識させられた。アルフォンソはその事実に気付き、自身の情けなさにそっと肩を落とした。






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