Visibile ferita

 入れ替えられた勝敗





「結構暗いね…気をつけなきゃ。」
資料室の中へ入るなり、カイルが小さく漏らす。それに各々首肯して螺旋状の階段を下りて行った。
彼らの背中を見ながら、フィアはそっと下を覗き込んだ。階下に流れているのは水である。この街を循環しているという水が、天井から資料室に流れ込んでいるのだろう。
洞窟で目を覚ましてから、およそ三日ほどが経っているだろうか。フィアはただただぼんやりと落ちていく水を目で追っていた。


蒼天都市ヴァンジェロ、紅蓮都市スペランツァ、黄昏都市レアルタ。
それがこの世界に存在するたった三つの街の名前だった。
滅菌されたドームに覆われた街で、中に入れば気密性が非常に高い。
あまりにも清潔すぎて生活感もなにひとつ感じられないドームの中。箱庭の中ですべてが完結している世界に息苦しささえ覚えた。

街の住人に話を聞いてみても、自分たちとはあまりにも違っていて驚きの連続だった。
何の不自由もない生活ができるから他の街に行く必要はないと言う女性、服を縫うということを知らない少女や、直射日光を浴びれば命に関わると怯える青年もいた。

そしてこの三つの街は、天地戦争時代以前にあった街の名前とまったく同じで場所も変わっていないという。
本来なら戦争終結の後、壊滅状態にあった街を復興させる過程で名称、場所が変わっていった。それは破壊と再生を繰り返していく歴史の中では当然の流れと言えよう。

しかしこの世界ではそれが行われていない。
それを聞いても、当然のように何が何やらわからない状態だった。
何か手がかりはないかと街の住人に訪ねて回ったところ、黄昏都市レアルタに過去のことが記されている装置があるという情報を得た。
洞窟のすぐ近くにあったヴァンジェロ、その次にスペランツァ、そして最後にここレアルタにやってきたのである。


「フィアー!」
こちらに手を振るカイルの声で我に返った。階段を駆け下りて何かの装置の前まで急ぐ。
落ちてくる水が暗い室内で光を反射して鏡のようになっていた。
フィアがやってくる前に誰かが装置を起動させたのだろう、すぐに映像が水面に映し出される。


prev / next

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -