Visibile ferita

 アクアマリンの面影




「待ちたまえカイルくん。これはハイデルベルグとアタモニ神団間に起きた政治的な問題だ。武力をもって事に当たれば衝突は避けられん。場合によっては戦争も起こる。」
両手を握って強い眼差しを見せたカイルに、ウッドロウが待ったをかけた。厳しい視線でカイルを貫いたウッドロウは目を閉じる。
国王である彼のそんな行動にカイルが目を見開いた。他のメンバーも同様、賢王ウッドロウ・ケルヴィンに何を言われるのかと姿勢を正す。

「カイルくん、君はスタンのような英雄になりたいと言ったね。英雄とは多くの人を救うものだ。」
続けたウッドロウの言葉は遠まわしに今のカイルの行動を否定しているように聞こえた。
フィアは横目でカイルを見る。しかし王の言葉に反論せず、カイルは強い決意を湛えたままのアクアマリンを真正面からぶつけていた。

「君の取ろうとしている行動はそれとは正反対だと思わないかね?」
「確かに、そうだけどよ……!」
「カイル……どうするんだい?」
ウッドロウの言葉にロニが俯き、ナナリーが困惑の表情でカイルを窺う。
しかしカイルは静かにウッドロウを見据えると、口を開いた。

「……ウッドロウさん、それ違うと思います。人ひとり……自分の大事な人も守れないやつが英雄になんてなれっこないです。だから俺は行きます。行ってリアラを助けます!」
「……どうしても、行くというのか…。」
一息で言いきったカイルは、ウッドロウを見つめた。ウッドロウもまた、カイルを見据える。
しばしの沈黙が空間を支配していたが、やがてウッドロウのくすくすとした笑いでそれは唐突に終わりを告げた。何事かと目を白黒させる一行にウッドロウは笑顔を浮かべる。

「すまないカイルくん、君を試すような真似をしてしまった。」
「ウッドロウさん……?」
首を傾げるカイルが面白いのか、ウッドロウの笑みは崩れなかった。悪戯っぽい笑いはやがて空気を緩ませて、緊張もほぐれる。
近くの兵にウッドロウが視線を送ると、その兵は手になんらかの書状を持ってやってきた。それを受け取ったウッドロウはカイルにそれを手渡す。

「これを持っていきたまえ。」
「これは……?」
「『この書状を持つ者、我の勅命により、レンズ奪還の任にあたる者なり。任にあたる際に対し発生する、あらゆる制約を我の名のもとに排除することを認める。ファンダリア国王、ウッドロウ=ケルヴィン』……こりゃあ、勅命状じゃねえか!」
渡されたカイルの後ろから書状を覗き込んだロニがその内容を読み上げる。聞いていく内にロニだけではなく、ジューダスやナナリーも目を見開いた。

「君の思うようにしたまえ。後のことは私がなんとかする。」
「ウッドロウさん、それじゃ……!」
「行きたまえ、カイルくん。他の誰でもない、彼女の英雄となるために。」
戸惑う視線を受け止めたウッドロウは、父親を思わせる優しい表情をカイルに向ける。ゆったりと玉座に腰掛け、静かに、しかし確かな強さがこもった言葉を紡いだ。


「はい!」
ウッドロウの励ましに応えるかのようにカイルは大きく頷いた。そして勢いよくウッドロウに頭を下げると、真っ先に駆けて行って玉座の間を出る。
それを慌ててロニが追いかけ、ナナリーも笑いながら走って行った。
ジューダスも微かに笑みを浮かべて後を追う。フィアもウッドロウに会釈をするとそのまま玉座の間を出た。
 

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