Visibile ferita

 手繰り寄せては手放して



カイル、リアラと同じ場所で意識を取り戻したフィアは自分がいた場所から十年後の世界に飛ばされてしまったこと、そしてこの世界の仕組みを知った。
アイグレッテで出産式というものを見て、フィアは酷く憤りを覚えた。
生まれたての赤ん坊に番号をつけて、親から引き離して管理するなどとんでもないと思うのだ。それはフィアが思い出せない記憶の中ですら、非常識であるはずだ。そうでなければこんなに驚く訳もない。

十年後のアイグレッテで出会った赤い髪の少女ナナリー。彼女とは奇妙な縁で繋がれていたようで、彼女の住んでいる村に仲間たちがいるという。
彼女の村はこの世界のやり方に納得できない集団のようで、毎日自給自足で辛い生活を送っているらしい。

どうしてと問うリアラに、ナナリーは笑顔で答えた。『教団の言いなりになって生きるのは、人間らしくないじゃないか』と。



この世界は変に清潔で、そして歪んでいる。
確かに人と人との繋がりを断てば諍いは起きず、世界の住人は自分たちは幸せだと思うだろう。だがそれは苦しみを乗り越えた先にある、嬉しさや喜びをも奪っているのではないか。

しかし、歪んではいるがこの世界も一種の幸せなのだろうとフィアは思う。そして自分はこんな幸せなどは望みたくないとも思った。
結論として人間らしく生きたいと思うには、この世界は清潔で穏やか過ぎる。それだけに早く彼らに、彼に会いたかった。


お調子者のロニ、無口なジューダス、そして…青い彼。

何故か、彼とは初めて会った気がしなかった。


初めて見たはずの時からの妙な親近感、そして既視感。
世の中宝石みたいに美しい双眸を持つ人間はいくらでもいるが、彼のサファイアは初めて見る気がしなかった。
ずっと前から知っているような、ずっと前に出会っているような。

彼も自分と同じようにこの世界を憂いているのだろうか。そう思う理由は、フィアにはまだわからない。





「あっ! ナナリー姉ちゃん! おかえり!」
「ただいま! みんな、いい子にしてたかい?」
「もちろんだよ! ねえナナリー姉ちゃん、おみやげは? おみやげ!」
「もう、せかさないの! もちろんあるよ。でも、その前に……」
ナナリーの住んでいる街であるホープタウンに入るなり、子供たちが笑顔で出迎えてくれた。
どの子供も嬉しそうにナナリーに駆け寄ると、元気いっぱいに手を伸ばす。そんな彼らに笑顔を見せたナナリーだが、すぐに周囲を見回して子供たちを見た。


「ロニとジューダスはどこだい?」
「え……」
「姉ちゃん、話があるんだけど。」
近付いてきた子供の頭を撫でながらナナリーが口にした名前は確かに仲間のものだった。しかし数が足りない。
てっきり三人一緒にいると思っていたフィアは思わず声を漏らしたがナナリーは気付かずに子供の顔を覗き込んだ。


「あのふたりならねぇ……」
「待てこらっ! こんの悪ガキがー!!」
それに応じた子供の一人が背後の山のような場所に視線を移す。同時に聞こえてきた耳慣れた声に、ナナリーは肩をすくめて呟いた。

「聞くまでもなかったね、こりゃ。」
 

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