Visibile ferita

 手繰り寄せては手放して



「お前らなぁ、そんなにマジで叩くことないだろうが!」
「だって、ロニもジューダスもぜんぜん、本気出さないんだもん!」
「そうだよぉ! 特にジューダス! もっとまじめにやってよ! 怪物はそんなにぼそぼそしゃべらないよ! もっと『ぐわー!』とか言わないと!」
「なんで僕がこんなことを……」
「あーっ! 文句言うならロニとジューダス晩飯ぬき!」
「ば、馬鹿野郎! 真面目にやれって! メシ抜かれたらたまったもんじゃねえぞ!」
「わかったら、もう一回最初から!」
一連のやり取りを聞いていたカイルとリアラはくすくすと笑い、ナナリーは見慣れているのかひっそりと微笑む。
フィアはというと先程ナナリーから聞いた仲間の名前を頭の中で反芻していた。単に彼は今他の場所にいるからナナリーはああ言ったのかもしれない。しかし胸を蝕む不安は大きくなるばかりだ。
昔から(いつの昔かは覚えていないが)勘は良く当たった。特に嫌な予感は外れた試しがない。……はず。

「どうしたのフィア?」
「え……?あ、」
カイルに言われて初めて服を握りしめて唇を噛んでいたことに気付き、ゆっくりと力を緩めた。
そしてナナリーが歩いていった方へと視線を戻せば、彼らはまだ子供たちに良いようにされていた。大方怪獣ごっこにでも付き合わされているのだろう。ロニはともかくジューダスが真剣にやるとは思えないが、夕飯を抜かれてしまうことを考えれば彼も必死になるかもしれない。

「おーい! ロニ、ジューダス!」
「ナナリー! こいつらになんか言って……カイル!?」
ナナリーの声に反応して、ロニが疲れきった声を出した。そしてこちらを向くとすぐに弟分と仲間の存在に気付いたのか、みるみる目を見開く。
近くにいるジューダスと目が合ったので笑いかけると、彼も仮面の下のアメジストを大きく見開いてこちらを見た。しかし照れ隠しなのかすぐに俯いて目を閉じてしまったが。


「カイルじゃねえか! 無事だったかぁ! お前ら心配かけさせやがって!」
「それはこっちの台詞だよ。俺たちだってみんなを探してて大変だったんだから!」
「僕らの方が大変だ。まったく、どうして僕が子守りなどを……」
再会の喜びを噛み締めるロニに同じように嬉しそうなカイル。そして彼らを見つめるリアラだが、彼女の表情にはどこか影が落ちている。どうしたのか聞きたかったが、この騒がしい中では難しそうだ。後に聞くことができれば良いだろうと結論付けた。
同時に少し離れた場所で、ジューダスが不満たらたらにぼやく。しかしそういったことは意図せずとも安易に耳に入ってしまうものだ。世間はそれを地獄耳という。

「ダメじゃんかジューダス! ホントに晩飯抜きにするぞ!」
「なーなーロニ、続きやろうぜ!」
「ねえナナリー、こいつらだれ?」
「早くしよーぜ! ほら、ロニ!晩飯抜きだぞ!」
「はいはい、いっぺんに喋らないの!」
案の定気付いた子供の一人がジューダスのマントを引っ張ると、芋づる式に子供たちが喋り出す。
ロニの背中に張り付いたり、ナナリーに引っ付いてみたり、とにかくマシンガンのような勢いで喋り出してしまった。ナナリーにもう一人の仲間の行方を聞こうとしていたのだが、それは彼女が手を叩いたことによりやっと止んだ。


「三人はカイル、リアラ、フィア。ロニやジューダスの友達。もちろん姉ちゃんとも友達! で、姉ちゃんたちは話があるから、ちょっとロニとジューダス借りてくけどいいかい?」
「うん!」
「あ……!」
「あと、ロニとジューダス今日は晩飯抜き! おばちゃんたちにそう伝えておいて。」
「なっ、なんだよそりゃ!?」
ナナリーちょっと待って!
そう言う暇もなくナナリーはすたすたと前を通り抜けて行ってしまう。彼女の裾を掴もうとした手は虚空を掴み、彼女へかけようとした声は次に続いたロニの大きい声にかき消されてしまう。

「勘違いしないの! 今日はあたしがごちそうしてあげるよ。」
「……人間の食えるものが出てくりゃいいけどな。」
「……ホントに晩飯抜きでもいいんだよ、ロニ?」
「いえっ、喜んで食べさせて頂きます!」
ロニの方を向いたナナリーは人差し指を立てると片目を伏せて笑ってみせた。
彼女の言葉に小さく呟いたロニだったが、絶対零度の視線を受けるとすぐに作り笑顔で姿勢を正す。



「決まりだね! じゃあちょっと時間を潰してておくれよ。」
そう言うや否や、ナナリーは驚くほどの速さで駆けていく。呼び止めようとしたフィアはがくりと肩を落としたのだった。


 

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