Visibile ferita

 初めましてノスタルジー



「さむー…!」
船を降りながらカイルが腕をさする。
体の芯まで冷えてしまいそうな温度にフィアも腕を抱いて小さく息を吐き出した。
そっと背後を振り返れば、ジューダスとロニの険悪な雰囲気は船内から何も変わっていない。
リアラが困惑した様子を見せている。しんがりのルナが困ったように微笑んだ。

ジューダスとロニが船内で一悶着起こしたらしい。
らしい、というのもフィアは現場に居合わせなかったので状況が飲み込めていないのだ。
カイルによると、船内で彼らは言い争っていたという。
何を言い争ったのかおおよそ見当もつかないフィアはその空気に何をするでもなく、そっと見て見ぬふりをしておいた。
その結果がこの険悪なムードである。

「あっ! 装備品売ってるみたいだよ!」
ため息をつきたくなるような重苦しい空気に耐えられなかったからか、カイルが明るい声を出した。
カイルが指さした方向を見ると、決して大きいわけではないがしっかりとした店構えの装備品屋がある。

「ジューダス、」
「えっ、…フィア?」
フィアは港に降りるなり、震えるリアラの細い腕を引っ張ってジューダスに呼びかけた。
リアラに視線を向けると、彼女はすぐに意図を察したようで口を噤む。さすがリアラ賢い子、心の中でそう呟いた。
視線だけを投げたジューダスに笑いかけると、フィアは装備品屋を示す。

「ちょっとさ、羽織るもの買ってきたいんだけど……」
「…そうだな、この寒さではあった方がいいだろう。人数分頼む」
「おっけ、了解!」
声をかけた時点でフィアが何を言うつもりなのかわかったのだろう。ジューダスはすぐにガルドをよこした。
同時に汽笛が鳴り響く。乗降の終わった船は碇を上げて出港していった。

それをなんとなく見届けると、フィアはリアラに視線を移した。
お互い頷いて装備品屋に向かおうとして一歩踏み出すと、ルナも一緒に一歩踏み出す。
彼を見やればにこにこと笑顔を見せるだけだ。

「あのー、」
「荷物持ち、必要かなって思って。」
「あ、それもそうか。じゃあルナも一緒にいこ?」
納得したフィアが手招くとルナは首肯して一歩後ろを歩く。リアラの手を握るとひどく冷えていて、かなり体温を奪われていた。

「、ルナ?」
「巻いてて。少しはましになるかもしれないし、ね?」
リアラが震えているのはわかっていたんだろう、ルナは巻いていたマフラーを解いた。ペンダントが隠れないように緩く巻いてやる。
困惑する様子のリアラに、ルナは穏やかに微笑んだ。

「あ、ありがとう…」
「ふふ、どういたしまして。」
気遣われているのがわかったのだろう、リアラは俯いて頬を染めると小さな声でお礼を言った。
それに嬉しそうに笑ったルナは歩き出す。遅れないようにフィアもその背を追いかけた。


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