Visibile ferita

 初めましてノスタルジー





「こんにちはー」
装備品屋に入ったフィアは、店主と思われる壮年の男性に声をかけた。
振り返った男性はにこやかに振り返ったが、フィアを見て大きく目を見開く。その驚きようにリアラもルナも、驚いた様子を見せた。

「いや、ごめんねお嬢ちゃん。前に来てくれたお客さんにお嬢ちゃんが似ていたもんだから」
「ふーん?」
「気を悪くしたらすまなかったね、何か入り用かな?」
先を聞きたかったのだが男性は曖昧に微笑んではぐらかすように尋ねる。
追求しようとしたフィアよりも先に、ルナがカウンターにガルドを置いた。店主を窺い見るとすぐに口火を切る。

「マントを六人分頂きたいのですが…」
「マントかい? 無くはないが…体を守るような強固なものはここには置いてないんだ。」
「あ、いいえ。防具ではなくて、できれば毛皮のものを頂きたくて…」
「ああ、そうかそうか。ちょっと待っておくれ。」
男性とルナの会話をずっと隣で聞いていたフィアは、男性が視線を移したのに気付いた。
薄着のリアラを見やった男性はすぐにルナの言葉を理解したのだろう、頷いてカウンターの奥へと姿を消した。
すぐにマントを六枚持ってきてくれた男性はゆったりと微笑んだ。
「君たちどこから来たんだい?」
「先日までフィッツガルドにいました。」
「そうかそうか、向こうは温暖で穏やかな気候に恵まれているというからね。確かにここの寒さは堪えるだろう。」
「ファンダリアに来るのは急に決まったことだったので、防寒具を用意していなかったんです…ありがとうございます。」
「いいんだよお礼なんて。それよりもそっちのお嬢さんがとても寒そうだ、ここですぐに羽織って行きなさい。お代はその後でいいから。」
男性が手渡してくれたマントをリアラにかけてやると驚いた様子で顔を上げた。
寒さのあまり、周りの様子が分からないほど震えていたようだ。
「ちょっとは楽になるかな?」
「え、ええ……ありがとうフィア。」

お礼を言われたことに嬉しくなって、視線を逸らして照れ隠しに頬をかく。どこを見るでもなく振り返るとルナもマントを羽織り終わっていた。会計もルナが済ませてくれたようだ。

残るはフィアだけだった。自分の分をカウンターの上から選ぶ。
金色の装飾のついた赤いマントが目に付いた。内側が毛皮になっている。色のせいもあるかもしれないが暖かそうな印象を受けた。
それを選んでボタンを外すと暖かな赤で自らをくるむ。
内側に使われている毛皮はやはり暖かい。これなら雪道を歩くのも楽になるだろう。

「あのお嬢ちゃんも、こんな寒い日に来たなあ…」
男性に視線を向けると、彼は懐かしむようにフィアを見つめていた。
男性の言う少女は、きっと今は亡くなっているのだろう。
そんな気がした。男性の表情が、まるで故人を悼むような悲しさに彩られていたからだ。

「あの…」
「君に会えて良かったよ。よかったら、またおいで」
「う、ん……」
男性の声は優しい祖父のような、暖かいものだった。
フィアには祖父の記憶はない。だがどこかで感じたような暖かさだということを確信できたのだった。
その自信がどこから来るものなのかもわからないまま、ドアノブに手をかける。
振り返ると、男性はなおもフィアを見つめていたのだった。


「あのおじいさん、フィアに会ったことがあったんじゃないかしら…」
店を出るなりリアラがそう言った。
栗色の大きな瞳は「戻らなくていいの?」と訴えている。彼女としてもフィアの記憶が戻るのは歓迎できることなのだから無理もない。
「……いや…」
しかし、その考えはルナが否定した。頭を振った彼は、悲しげに青い宝石を細める。

「あの人が会ったっていう女の子は亡くなっているんじゃないかな……。」
「どうして?」
純粋なリアラの質問に、ルナは頷いた。首を傾けて、悲しげに微笑む。

「亡くなっていることを知らなければ、フィアとその子が“よく似た他人”だとはわからないから。本当にその子が生きているのなら、あの男性はフィアをその子と間違えるんじゃないかな。」
「……」
「でもあの男性はフィアを見て“よく似たお客さん”と言った。もしかしてもう何十年も前のお客さんだったのかもね。」
そう締めくくったルナは、持っていたマントの山を抱え直す。男三人分のマントは結構重たそうだ。
彼は華奢だったから、なんだか余計にずっしりとして見えてしまった。
雪道を歩きながら、さっきの男性の暖かな声を思い出す。あの優しい視線を、いつかどこかで感じたような気がしてならなかった。


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