Visibile ferita

 深海の世界で






「――! フィア!」
「しっかりして!」
低い声と高い声が同時に呼びかけてきて、思わず目を開けた。
眼前に広がったのは、洞窟の天井らしき場所。そしてジューダスとリアラの顔だった。

リアラの手元には淡い光が広がっている。治癒術をかけてくれていたのだろう。
彼女に感謝をしつつも起き上がった。


「大丈夫?」
「……うん」
「……本当にか?」
「……!」
カイルが声をかけてくる。彼に頷くと、ジューダスが顔を覗き込んできた。
ぎょっとしながら後ずさると、彼は距離を取りたいフィアの気持ちに気づいてくれなかったらしい。
肩を掴まれてじっと見つめられてしまった。思わず視線を逸らしてなんとか距離を取る。

「心配させないどくれよ」
「まったくだ。頭打ってたしよ、起きなくて焦ったぜ……」
「…ごめん」
「ばかやろ、心配したんだぞ」
ナナリーとロニもほっとしたように息をついた。申し訳ない気持ちでいっぱいで頭を下げる。
しかし頭をロニが乱暴にかき回した。くしゃくしゃと撫でられて悪い気はしない。
「へへ、ありがと」
「おうっ…どああいっでええてめっジューダスてめ! いだだだだだ!」
「……」

礼を言ったらジューダスが勢いをつけてロニの足を踏みつけた。
女王様のように念入りにぐりぐりと、踵に全体重を乗せて、踏みつけていた。非常に痛そう。
ロニの声がどれほど痛いのかを物語っていたが、何故か誰も助けてやらなかった。洞窟の中を貫きそうな程の小気味よい悲鳴が鼓膜を震わせる。
ロニの声が目覚まし時計の代わりを務めてくれた、といってもいいだろう。

「ところでここって?」
「ルナの夢世界らしいよ。」
意識もはっきりとしてきたフィアは周囲を見渡してカイルに尋ねた。
カイルはリアラに確認を取るかのように、彼女に視線を向ける。それに応じたリアラは両手をペンダントに添えた。

「私たちは入り口からだいぶ流されてしまったみたいだけど、なんとかはぐれずにここまで来れたの。もしかしたらここが分岐点なのかもしれない」
「みんなすぐに気が付いたんだけど、フィアだけずっと気を失っていたんだ。びっくりしたよ」
困ったようにカイルが笑う。
小さくごめんと謝ると、カイルは首を振った。
「無事でよかったよ。本当に」


「それにしても……まさか、ルナがあの高雅の英雄カノンと同一人物だったなんてね。」
「だよなあ、俺たちの中に有名人いすぎじゃないか?」
ここで、洞窟を見回していたナナリーが肩をすくめる。
彼女に便乗して、ロニも頷いた。ジューダスからの嫌がらせは終わったらしい。

「当然といえば当然……なのかもしれん」
ジューダスが小さく呟いた。彼に視線で理由を尋ねる一同に、彼はそのまま続ける。


「僕はエルレインに利用価値が高いと判断されて蘇生されたんだ。リアラが英雄を求めていたことを考えると、エルレインもなんらかの英雄を求めていた……のかもしれない。」
「……それって」
「そうだ、天日の女神や高雅の英雄――アリアやカノンにも利用価値があると考えても不思議ではない」
ジューダスに頷かれたカイルは悲しそうにアクアマリンを歪ませて俯いた。
唇を引き結んでいる。何か過去にあったのかもしれない。


「とにかく、ルナに会わねえことには進まねえんじゃねえか?」
「そうだね、探しに行こうか」
空気を変えるようにロニが言う。それにカイルやナナリーも頷いた。


「……必要ない」
「え」
しかしジューダスが首を振る。全員が目を見開いたのを見て、ジューダスは静かに周りを見回した。

「この洞窟、見覚えはないか?」
「えっ……ここかい? あんたたちはともかくあたしらは……」
彼の声にナナリーが驚いた様子で目を見開く。烈火のような髪が、彼女の声のように不安げに揺らめいた。
ジューダスはそっと外套の下にあった鞘に触れる。祈るように目を閉じていた彼は首を振った。


「見たはずだ。僕の世界に来ていたのだから。あれを、見たのだから」


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