Disapper tear

 朧に輝く月光は





「……雪…」
「カノン、どうしたんだ?」

ファンダリアの玄関、スノーフリアに降り立った一行。
ぽつりと呟いたカノンに、スタンが声をかけた。
スタンに気付いたカノンは笑顔を作り、手のひらを開く。そこに舞い落ちる雪の結晶を見て、スタンに笑いかけた。

「きれいだな、って思って。」
「そっ……そっそそそそそそそうだな!!」
寒気のせいかスタンは顔を真っ赤にして、金魚のように口をぱくぱくと動かす。
それを見たリオンの眉間が恐ろしいほど寄せられ、彼は久しぶりに手に持ったボタンを勢いよく押した。


「びびびびびびびびびび……!」

当然、スタンは電撃を食らう。
金髪が針刺しのように逆立って、威嚇行動をしているハリネズミのように見えた。
そんな彼はさておき、アリアが新雪に足跡をつけていく。


「俺、雪なんて始めて見る! セインガルドからはあんまり出なかったからなぁ。」
「そうなの?」
「うん! ふふー、楽しいや。」
「まったく、あんた可愛いんだから。」
「へへー。」
苦笑を溢しつつもルーティはアリアの頭を撫でた。それを受け入れてアリアは目を閉じる。
しかしすぐに目を開けてルーティの手を掴んだ。

「ルーティ、グローブ着けてんのに手冷たいや。どっかでマント買おう?」
「ありがと。」
「フィリアもね!」
「はい……ファンダリアは寒いですね…」
かたかたと震えているフィリアにも声をかけて、アリアは装備品屋を探す。

「あ! 見っけ!! リオン、ちょっと行ってくる!」
すぐに見つかったので、リオンが頷いたのを確認してからルーティとフィリアの手を取って駆け込んだ。
店に入ると、店主が恐る恐るといった様子で顔を出す。


「い、いらっしゃい…」
「おじさん、マントちょーだい。」
「ああ……。ちょっと待っててね。」
声をかけると店主は安心したのか小さく息をついた。にっこりと笑んで頷くと奥からマントを持ってきてくれる。

「はい、三枚で大丈夫かな。」
「うん。ありがとう。あ、そうだ…ちょっと聞いてもいい?」
「ん、何かな?」
品を受け取り、代金を渡した。
ついでに情報収集もしておこうとアリアは話を切り出す。


「俺、ファンダリアって初めてなんだ。おススメのところとかある?」
「そうだねー…お嬢ちゃん、観光かい?」
「まあそんなとこ。なんでもいいよ、教えて!」
にこにこと笑顔で話すアリアに、店主も笑顔で応対する。
うーん、と考え込んだ店主はさっと顔を上げて、後ろのルーティとフィリアを見た。

「そうかそうか、お友達同士で観光か。仲がいいんだねぇ。」
「でしょー。一番の友達なんだ!」
「女の子同士だったら、ここの温泉やハイデルベルグのお城なんかがいいかもしれないね。…でもお嬢ちゃんたち、悪い時に来ちゃったな。」
「?」
「どういうことですか?」
声音の変わった店主に、アリアは首を傾げる。フィリアが尋ねると店主は苦しげに眉を寄せた。


「ハイデルベルグは最近不穏な連中が多いっていう噂が立っていてね。スノーフリアも危ないらしいから、私もセインガルドに行こうと思っていたところだったんだ。」
「それは困ったね……おじさん、じゃあ準備とかしてたんだ。邪魔しちゃってごめんね。」
「いやいやいいんだよ。まあそういうわけだからお嬢ちゃんたち……折角来てくれたけど、ここももう危ないからお帰り。」
眉を下げたアリアに、店主は首を振る。人の良い笑顔を見せた店主はアリアの頭を撫でた。
ぽんぽんと優しく撫でられて、アリアの顔は綻ぶ。



「……ありがとう、おじさん。ほとぼりが冷めたらまた来るね!」
「もちろんだよ、またおいで。」
「うん!」
ちゃんと礼をするのを忘れずに、アリアは装備品屋のドアを開けた。

 

「アリアさん、すごいですわね。」
「へ?」
店を出てすぐに、フィリアがアリアの手を握った。
きょとりと目を瞬かせるアリアに、ルーティが笑う。

「いっつもああやって情報集めてるの?」
「……え、うん。」
「あんただから出来るのよね、あれ。」
「あは。黙ってればフツーの女の子らしいからね、俺。」

へらりと笑ったアリアに、二人は顔を見合わせた。ルーティは肩を竦めてフィリアは笑って小首を傾げる。


「客員剣士って色々なタイプの方がいらっしゃるのですわね。」
「タイプ?」
「リオンさんは戦闘能力が高くて、アリアさんは話術に秀でているし、カノンさんは観察能力が群を抜いておられますわ。」

フィリアはクレメンテを抱え直して、アリアに微笑みかけた。彼女の発言に驚いたアリアはマントで口元を隠す。


「あらアリア、照れてるの?」
「照れてねーもん!」
にんまりと笑ったルーティに頬を突かれた。それに顔を背けてアリアは走り出す。



赤く染まった頬と、にやけた口元を見られないために。




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