Disapper tear

 月自らを憂うこと能わず






フェイトを助け無事に黒十字艦隊は出航し、今は大海原の上を航行中だ。
そんな海原の船の上にひょっこりと金髪が顔を出す。



「カノン……?」
甲板にいると言って出て行ったリオンの顔色が心配で追い掛けてきたスタン。しかし彼は甲板でリオンではなくカノンを見つけた。
海を見ている深海のような目は、どこか迷いがある。

素人が一見しただけではわからないが、スタンはソーディアンマスター。
カノンがアークと何か話しているのはわかった。



『だからカノン、お前無理し過ぎなんだよ。』
「あはは。」
『笑いごとじゃねーだろ!』
「……ごめんね。」
アークのお叱りをのらりくらりとかわすカノンは、くすくすと上品に笑う。
その表情がなぜか儚い綺麗なものに見えて、スタンは思わず赤面して物陰に隠れた。



『……なんでお前、あそこでバティスタを助けた?』
「なんでかな? 僕もわからない。」
『バティスタは本来、何しても助からなかった。それをお前は捻じ曲げたんだぞ。』
「…うん。」
『お前、この世界で死ぬつもりか?』
「……そのつもりはないよ。」
『お前なぁ…』
ため息混じりのアークの声に、カノンは苦しそうに微笑む。
その笑顔はいつもと違ってにこやかなものではなく、胸が締め付けられるような……そんな微笑。
海風に遮られてところどころ聞こえないが、カノンは悲しそうに微笑んでいる。



『いつお前の体に反動が来てもおかしくないんだからな。』
「うん…。」
『……無理すんなよ。』
「ありがとう、アーク。」
カノンの声を最後に、アークの声はしなくなった。おそらくコアクリスタルを閉じて一時的に眠りに入ったのだろう。

「う……っ…」
「カノン!」
スタンがそっと物陰から様子を窺うと、カノンは物悲しい笑顔を湛えたままアークのクリスタルを撫でた。そしてそのまま目を閉じると、彼はふらりとふらつく。
驚いて物陰から飛び出し、その華奢な体を支えた。顔色は青を通り越して真っ白だ。


「カノン、大丈夫か?」
「す、たん……?」
「そうだよ。カノン、具合悪いのか?」
そういえばモリュウ城からここまで、大きな休養は取っていない。
さっきの話だとカノンがバティスタを回復したあの技は、術者にかなりの負担がかかるものなのかもしれない。

だとしたら、カノンは相当疲れているはずだ。



「カノン、中に入ろう。休んだ方がいいぞ。」
「うん、そうしようかな。」

にこりと微笑んだカノンの背中を支えながら、スタンは船室へと向かった。



 


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