Disapper tear

 月自らを憂うこと能わず



 
「うわっ!?」
「すごい揺れだね……。」

とたんに船が揺れ、スタンは椅子から落ちそうになったところを何とか踏みとどまった。
ベッドに横になっていたカノンが起き上がって、揺れている天井を見上げる。


「この揺れは気候によるものとは思えない……モンスターかな?」
『百聞は一見にしかず、だ。行った方が状況わかるだろ。』
「ああ……カノン、大丈夫か?」
「大丈夫。ありがとう、スタン。」
アークの声に後押しされるようにカノンは床に足をつけた。スタンが覗き込むと、カノンは満面の笑みを返してくれる。
カノンの腕を掴んで支える。酷く頼りなくて、細かった。

「―――……。」
こんな細い腕で、彼は戦っているのか。
スタンは微妙な気分になった。






「これは!」
「遅いわよ、あんたたち!!」
甲板に出るなりルーティが叫んだのが聞こえる。
前を見ると、蛸に似た形状のモンスターがうねうねとしていた。

「いーやーっ、こっち来ないでよ!」
今にも詠唱中のルーティに襲いかかりそうだ。スタンがあ、と声を上げた時、隣にいたはずのカノンがルーティの前に回り込んで蛸の足を受け止めていた。
いつ抜刀したのだろうか。


「いいからお前はとっととフィリアの援護に行け!」
リオンからの檄が飛ぶ。はっとしてスタンもディムロスを抜き、フィリアの前に迫っていた足を斬りつけた。
ふとカノンを見れば、先程倒れたばかりだというのに忙しなく動いては足の進行を防いでいる。

詠唱中のアリアに近づく足を斬撃で払い、斧を取られたマリーを初級晶術で援護する。
支援歌技を奏でているジョニーと詠唱中のリオンを邪魔するべく噴出された潮を風系晶術で相殺、前に出たアリアに任せて詠唱を始めた。


「──ストーム! ……リオン、フィリア、」
「ああ、助かる! ──エアプレッシャー!!」
「行きますわ! ──フィアフルフレア!!」

その詠唱すら布石で、大きな術を組み立てていたフィリアとリオンの援護。
それは見事にモンスターの気を引き、そこにリオンの晶術が命中、更に思わぬところから飛んできたフィリアの炎でモンスターは絶命した。


鮮やかな手際に、スタンはぽっかりと口を開けていた。



「はー…カノン、ありがと。」
「どういたしまして。」
「お前が来てくれて助かった。手数が足りなかったからな。」
「そう…役に立ててよかったよ。」

ルーティに続いてリオンもカノンに声をかけた。
それに微笑んで応答するカノン。まだ顔色は優れない。


「………!」
スタンにははっきり見えた。リオンの眉が、訝しげに寄せられたのが。
リオンとカノンは長い付き合いなのだ、スタンが気付いたことをリオンが気付かないわけがない。

「カノン、お前……」
「あー!あれがトウケイ領か!?」
しかしリオンの言葉は陸地を発見したアリアの声にかき消された。
嬉々として舳先へと駆けるアリアは子供のような純粋な表情で、陸地を見つめている。


がくりと肩を落としたリオンは脱力したような顔をアリアへ向けた。


「油断するなよ、アリア。」
「ん? …おう! まっかせなさい!!」
「調子に乗ると海に落ちるぞ。」
「うっわぁ! それは嫌だ!」
「……馬鹿者。」

それに溌剌とした笑顔を返すアリアに、リオンは目を伏せ困ったような笑顔を浮かべる。
その表情はとても優しい色を含んでいて、普段のリオンが嘘のようだった。

 


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