Disapper tear

 曖昧な不安




「神官が見張っているぞ。」

一行はカルビオラにある神殿の入り口まで来た。
しかし、案の定ともいうべきか入り口には見張りが立っている。

「これじゃ中に入れないわ…」
「困ったなぁー…突入する訳にも行かないし…」
「…そうですわ!」
様子を窺いながら困り果てる一行の後ろで、フィリアが小さく手を叩いた。何事かと後ろを振り返ると、フィリアは満面の笑顔で胸に手を当てる。


「私が視察中の司祭として様子を窺って参ります。皆さんは少し離れてお待ちください。」
「お前がか? ……カノン、」
「はい。」
「フィリアの護衛としてついていけ。お前なら敬虔な信徒といっても通じるだろう。」
フィリアの言葉にリオンが眉を寄せた。少し考え込んだリオンはカノンに視線を移す。
そして彼にフィリアの護衛を命じた。


「分かりました。」
「行って参りますわ。」
カノンはすぐにその命令に頷くと、フィリアと共に神殿入り口へと向かう。
その後ろ姿を見送りながら、アリアは揺れる銀糸を見ていた。

────



「神像もグレバムも知らないそうですわ。でも…おかしいです。」
「どういうことだ?」
見張りの神官とある程度言葉を交わしてからフィリアが頭を下げる。
そのまま戻ってきたフィリアは俯いて、胸の前で手を組んだ。リオンの声にはフィリアではなくカノンが答える。

「フィリアは『グレバムを知らないか』と尋ねました。でも、あの神官はグレバムがセインガルドの大司祭だって知っていたようです。」
「ほう…。それは繋がりがあると言っているようなものだな。」
リオンは端正な顔に笑みを浮かべて、尖った顎に指を添えた。そんな彼の言動に、ルーティとスタンが首を傾げる。


「大司祭の名前くらい知ってるんじゃないの?」
「んーん。神殿のピラミッドは、一番上に大司教、その下に司教、そこから下は大司祭、司祭。」
「神殿において大司教や司教は責任者みたいなものだから、他の神殿にでも名前が知れていたりするけど……司教より下の位についている人は知られることが滅多にない。神殿同士でのやり取りも巡業くらいで、繋がりは希薄なものだから。」
カノンがアークの柄に手を添えながらアリアの説明を補ってくれた。
柄に添えられた手を見て、アリアはリンカからの贈り物のことを思い出す。渡してほしいと頼まれた青の石を渡さなければ。



「カノン、これ。」
「あ、それは……」
ポケットに入っていた物をカノンの白くて細い手に乗せれば、カノンはその手を覗き込む。
その様子を見て、マリーが声を上げた。


「確か、あのリンカという子に貰っていた物だな。そうか、リオンとアリアと…後一つはあなたの分だったのだな。」
「…リンカから…? 二人共、リンカに会ったの?」
「会って第一声が『カノンお兄ちゃんはどこに行ったの』、だったがな。」
リオンが視線を逸らしながら言うとカノンはにっこりと笑ってリンカの作った青いブレスレットを腕に通す。

「元気だった?」
「うん、それに俺とリオンにまでくれたんだよ。」
「…良かった。」
腕に通しているブレスレットを見せると、カノンは安心したような優しい笑顔を見せた。
そして悪戯をする子供のような表情を浮かべると、カノンは悲しげな顔でリオンを見る。もちろんそれはふざけているもので、本当に悲しんでいるわけではない。


「この間まで僕にべったりくっついて回ってたのにな。この間リオンに会ってからリンカってばリオンにばっかり…悲しいな。」
「やかましい! 僕のせいじゃない!! あの子供が勝手に僕に付いて回るだけだ!」
「リオンのタラシー。」
「う…うるさい!」
「そろそろ止めてやんなさいよ、あんたたち。」
アリアが飛ばしたヤジにリオンは顔を真っ赤にして反論しているが、顔の色が顔の色なので説得力はない。
それを見たルーティが溜め息をついて壁に凭れかかった。
ちなみに、あの言い争い(?)のあとルーティはカノンに謝らないと宣言した。
カノンもそれでいいとルーティに言ったのだ。それ以降両者の関係はさして不安なこともなく、普通である。



「…それよりフィリア、この神殿って夜忍び込んだりとか出来ない?」
「それはナイスアイディアですわ!」
ルーティの提案にフィリアは両手を合わせて明るい笑顔を見せた。
クレメンテをしっかり握ったフィリアはそのまま続ける。


「でしたら私は今夜視察中の司祭と銘打ってここに泊めさせていただきます。夜中になったらこっそり鍵を開けておきますわ。」
「そうしてくれ。フィリア、護衛の者は中に入れるのか?」
「はい、大丈夫だと思いますわ。」
「そうか…」
両手を組んで微笑むフィリアに、リオンが考え込む様子を見せた。そして顔を上げたリオンはカノンを見る。

「……カノン、お前もフィリアに同行しろ。」
「はい。了解しました。」
「頼むぞ、二人とも。」
リオンの声に頷いたカノンは剣の柄に手を置いた。マリーの声に笑顔を返すと、二人はそのまま神殿の中へと入っていくのだった。




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