Disapper tear

 太陽のように






「あれよね? バルック基金て。」
「看板も出ているし……そうだな、間違いない。」
歩いていたルーティが看板を見つけて立ち止まり、それを示して確認を取る。
それに応じたのはマリーで、彼女も大きく頷くとその建物を目指して再び歩き出した。


「…そういえばなぜリオンは私たちを迎えに来たんだ?」
「来客中らしい。外で待っていたが強い晶力を感じたから街を回っていたんだ。」
「あ、もしかしなくても…俺だよね……」
道中、あまり口数の少なかったマリーだったが、ここでリオンに尋ねる。そんなマリーからの質問に、リオンはバルック基金の看板を見たまま答えた。
無感情なリオンの声が逆に恐怖を煽る。耐えられなくてアリアは視線を落とした。



「……あ、」
重くなってしまった空気の中、スタンが声を上げる。バルック基金から胸に“OBERON”の刺繍のついた服を着ている若い男が出て来たのだ。
その男はリオンに一礼するとすぐに去っていく。


「帰ったようだな。」
足早に建物へ入って行ってしまったリオンを急いで追いかけた。
ドアを開けたままスタンが待っててくれたので、彼に礼を言って中に入る。



「ねぇリオン、パイン食べた?」
オフィスの中を歩きながらルーティがリオンに先程のパインの行方を尋ねた。忌々しげに眉を寄せたリオンはルーティを一瞥するとすぐにそっぽを向く。


「あれは舌が痺れるから嫌いだ。」
「呆れた。あんたってすごい偏食なのね。よっぽど甘やかされて育ったんじゃない?」
「うるさい。」
一言で切り捨て、眼前のドアを開けるリオン。
執務室は一番奥にあったらしく、今リオンが開けたドアがそうだったようだ。ドアが開くとひんやりとした風が穏やかにアリアの頬を撫でた。



「お待たせして申し訳なかった。レンズの入荷量の調整に少々手間取ってしまって。」
アリアはバルックに会うのは初めてだったため、思わず凝視してしまった。

バルックは神殿に居そうな雰囲気の男だが、表情はそれとは正反対だった。満面の笑みをたたえてリオンに握手を求めている。


「よく来てくれた。半年ぶりか。…おや? そちらは…」
手をとったリオンに言葉をかけたバルックだったがふとアリアを見て目を見開いた。ブローチに驚いたのだろう。
視線に気付いたアリアは右手を胸の前に持っていき、頭を下げる。


「初めまして、バルック様。アリア・スティーレンと申します。」
「あぁ、君があのアリア君か。話は聞いているよ。」
「話…?」
謁見の間にいた時のような挨拶をすると、後ろにいるスタンとルーティが目を見開いてこちらを見ていたのだがそれは華麗にスルーすることにした。
アリアの挨拶に笑顔を見せたバルック。しかし彼の言った言葉に引っ掛かりを覚えたらしいリオンが訝しげに眉を寄せる。



「ああ。なんでも“アリア・スティーレンは太陽のような客員剣士”らしい。」
「太陽?」
今度はアリアが聞き返すとバルックは「ははは…」と笑って続ける。


「“その笑顔は陽光のごとく、その怒りは灼熱のごとし”…ってな。」
「………。」
“灼熱”の部分は間違いなく怒った時のアリアのことだろう。
そんなにも自分は各地で怒りを露わにしていて、都市伝説かのように語り継がれているのかと思うと頭が痛くなってきた。
しかしこの場合は本当に頭が痛いのはアリアではなくて、アリアの上司であるリオンの方だろうと思うので頭を振ってその考えをかき消す。




「それにしても今日は大所帯だな。しかも妙齢の女性が四人もいらっしゃる。」
バルックが言った。アリア以外の三人に視線を向けた後、彼はスタンに目を止める。


「これはこれは青年。若いのにいい目をしているな。どうだ、よかったら私の下で働いてみないか。」
「は……でも。」
「先程言われてしまったが、私はバルック・ソングラム。オベロン社カルバレイス方面支部長などという身に余る職務を拝命している。」
バルックは続けた。
スタンの空色の双眸をしっかりと見据えて真剣な表情を見せる。


「君のような青年を育て、より良い世の中を作り上げるのが私の使命だと思っているんだ。どうかね?」
「それはこ、光栄です。」
ここまで言われると悪い気はしないだろう。スタンはにかっと笑った。
照れているのだろう、この旅のメンバーには馬鹿だのアホだの言われ続けて来たスタンだ。頬を染めて笑う姿は純朴な青年そのものである。


「バルック、そのくらいにしてくれ。この馬鹿がのぼせあがっている。」
リオンの一言に、スタンはむっと眉を寄せた。
その表情は子供のようで、アリアは思わず笑ってしまう。


「それより最近なにか変わったことはないか。」
「そうだな……フィッツガルドのイレーヌから報告があった程度だ。」
リオンとバルックの声を聞いて、アリアは周囲を窺った。
しかし皆、二人の話に集中して聞き入っている。それを確認すると、アリアはそっとバルック基金を出た。



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