Disapper tear

 襲撃されし竜が隠すのは






「んー、涼しい。」
風をまともに受けながら、アリアは一言呟きを漏らした。
短めの髪は揺れ、目を閉じれば顔に心地よい風がぶつかる。…なんといったってここは飛行竜――空を飛ぶ乗り物なのである。



「…さすがは飛行竜ルミナ・ドラゴニス! 眺めも速さもサイコーだね。」
現在位置は空の上。右を見れば大きな翼。
たくさんの人間を乗せた飛行竜が大きな翼をばさばさと動かす。
健気にも人間に従いし古代の遺物、飛行竜は空路を辿りセインガルド王国ダリルシェイドに向かっていた。



「うー…!」
呟いたアリアは気持ちよさそうに伸びる。すると自身の背骨はぼきぼきと音を立てた。

「……さてと息抜きはしたし、これからまた任務に戻りますか!」
思い切り空からの風景を楽しんで意気込んだアリアは軽く頬を叩く。
それと同時にどたどたと慌ただしい足音が聞こえた。その慌てように振り返ると、案の定そこには兵士の一人が立っている。


「アリア様っ! 客員剣士アリア・スティーレン様!」
重そうな鎧をがしゃがしゃと鳴らして駆けて来る兵士は急いで来たのだろう、肩で息をしているのが見て取れた。

彼は仕事ぶりも懸命で、性格も真面目な兵士だったとアリアの頭は兵士に関しての情報を思い出す。
デッキに上がって来てからもアリアの名前を呼んだまま、その場でぜいぜいと荒くなった息を整えていた。デッキまでアリアを探しに来たことから、かなり予定から外れた事件が起きたのだろう。


「どーかしたんですか?」
尋ねると彼はびくりと肩を揺らし、緊張した面持ちで背筋を伸ばした。

アリアは客員剣士だ。
客員剣士とはこの飛行竜に搭乗しているどの者よりも地位の高い、ある意味権力者とも言える存在。
今飛行竜が向かっているセインガルド王国。その国を統括する国王の信頼を得た、城仕えの兵士の中でも特別な存在である。
当然、他の者よりも任務の危険性は大きい。代わりに客員剣士はそれに見合う権力や地位、報酬を受け取る。

「そんなに血相変えて……なんか起こりました?」
「は、はい…!」
そんな『特別』である存在が目の前にいるのだ。しかも自分は下町から出てきたから一応出世してきたと言えるだろうし、結構な二つ名までも頂戴している。
緊張しない方がおかしいかもしれない。そう思いながら出来るだけ気軽な雰囲気で笑顔を向けると、彼は大きく頷き口を開く。


「み、密航者が居ましたので報告に来ました!」
「密航者ぁ?」
「はっ…はい! どうやら倉庫にうまく隠れていたらしく、今まで気付きませんでした…申し訳ありません!」
存外不機嫌そうに聞こえてしまったのだろうか、兵士の表情が瞬時に青ざめる。自分の上司はかなりのスパルタだし、怒られると思っているのかもしれない。
まあ自分はその上司のように「何故今まで気付かず放置していた。やる気あるのか貴様は」なんて彼を責めるつもりはないのだから、そんなに緊張されるのもなんだか居心地が悪い気もする。

「艦長が取り調べを行っています。しかしアリア様にご指示を仰ぐべきだという意見も出ていたので、自分が代表で報告に参りました。」
「……なるほど。」
頭を下げたままその兵士は怯えた声音のまま、状況の報告をしてくれた。
なるほど、今この飛行竜の操舵をしている艦長は真面目な人間だが少しばかり融通の利かない人間でもある。それはアリアも重々承知だったし、船員や兵たちの間ではそういうこともあって恐れられていた。
仕事への強い責任感と気付かなかった船員たちへの憤りで艦長の怒りのボルテージは今やマックスだろう。


「うーん……っていっても俺も気付かなかったしなぁ…」
アリアはぼやく。隠れていたはずの密航者の存在に気付かなかったのは何も船員や兵士だけではなく、アリアも同じだ。
ならば艦長のお叱りを受けるのはアリアもだろう。

「怒んないから顔上げてくださいよー。」
「え……?」
「気付かなかったのは俺もおんなじなんで、ちょっと行ってみましょ。たぶん艦長はそこにも怒ってるんだろうから。」
慣れない敬語を使って彼に言うと、怒っていないのに驚いたのか彼はきょとりと目を瞬かせる。
そんな彼にアリアは悪戯っぽく笑みを作った。

「だから、みんなと一緒に俺も怒られまーす。それでたぶん大丈夫でしょ。」
「あ……ありがとうございます。」
「いえいえー。」
年端もいかない年下の上司に、兵士のほとんどが悔しさを感じているということをアリアは分かっていた。
アリアは身分とか気にしているつもりもないしそれをひけらかしているつもりもないのだが、周囲の人間はそうもいかない。


「じゃあ、一緒に行きません?」
だからアリアは彼らと自分の身分に関係なく、彼らが年上だから敬語を使うのだ。
自分よりも歳を重ねていて、経験していることもずっと多い彼らに対して敬う気持ちを忘れることは出来ないと思っているから。

その気持ちが少しでも伝わればいいと思いながら、アリアは兵士に笑顔を向けた。




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