Disapper tear

 襲撃されし竜が隠すのは




「あ、えーと…生まれはフィッツガルドです。」
密航者、というのは呑気にもあくびをしている金髪の青年だった。こんな空気の中でさえ、のほほんとした態度で応答しているその青年は余程の馬鹿なのかとアリアは眉間を抑える。


「お前、本当にあれを奪いに来たんじゃないのかっ!?」
セインガルドは発展国であり、その中でもアリアが住んでいるダリルシェイドは首都に値する。
発展しているだけに治安が悪く、アリアもよく賊の討伐に駆り出されていた。仮に彼が艦長の言う『あれ』を奪いに来た賊なのだとしても犯罪の“は”の字も知らないような、こんなにもとぼけた犯罪者は初めてだ。

そんな彼を前にして、大切な任務の真っ最中である艦長の怒りが爆発しないはずもない。しかしそんな艦長の怒りにも、密航者の青年は困った顔をしてぽりぽりと頬をかく。
相手が怒っていることはいくらなんでも分かっているだろう。言い淀む理由は密航者の彼に『あれ』が思い当らないからだ。

「お前たちもなぜこの男が乗っていることに気付かなかった!」
艦長の怒りっぷりにどうしたらいいのかと兵士たちがどよめく中、アリアは一歩踏み出して挙手をした。


「はいはーい、それくらいにしませんかー?」
「アリア様…」
「アリア様だぞ…」
艦長がこちらを見ると同時に、兵士たちがこちらを見てざわめいた。
ここまで一緒に来てくれた兵士に視線を送ると、彼は一礼して下がる。すぐに友人たちに囲まれた彼は、困ったような顔で彼らに応対していた。


「彼が乗っていることに気付かなかったお叱りなら自分も受けますよ。」
「とんでもない! 客員剣士様にそんな……」
それを見届けてアリアは艦長に向き直る。艦長が背筋を伸ばして顔を緊張させる。
しかしその理屈を通すのはいやだった。地位が高いというだけで責任を逃れるのは、アリアが最も嫌う貴族連中と同じだからだ。

「密航者に気付かなかったのは船員全体の責任ですから。アリア・スティーレンはこの飛行竜任務の責任者ということになってますし、責任は自分にもあると思うのですが。」
「……しかし…」
「じゃあこうしましょ。」
まだ納得していない様子の艦長に、アリアは笑顔を向ける。
彼は仕事に真面目なだけで、人間性は悪い人ではない。ただ生真面目故にこのまま見過ごすのは嫌なのだろう。
アリアはそんな彼の考え方を否定するわけではない。だから代替案として、ひとつ提案することにした。


「どうやら彼は物を盗みに来たわけでもないようだし、罰としてタダ働きしてもらってセインガルドまで乗せてあげたらいいんじゃないっすか?」
だから近くに立てかけてあったデッキブラシを取って密航者の彼を見た。
青年はきょとんと空色の目を瞬かせて、こちらを見る。

「どうです?」
いつも笑顔の友人を思い浮かべながら、アリアは疑問を封殺するかのようににこやかな笑顔を作ったのだった。




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