Disapper tear
暑くて冷たいお国柄
「やっと到着かー。」
スタンが言いながら気持ち良さそうに伸びをした。
砂気の混じった乾燥した風は、ダリルシェイドからあまり出たことのないアリアには少し辛い。
「なんか暑くない?」
ルーティが手をぱたぱたと動かしながらスタンの方を見た。その視線は「暑さ感じないのこの田舎もんは」と言っている。
まったくこの暑いのにスタンは元気そのものだ。
「この島は火山が多くて雨が少ない、熱帯性砂漠気候だと何かの本で読みましたわ。」
「フィリアは物知りだなぁ。」
カルバレイス港までは三日かかったが、心配されていた魔の暗礁にいるというモンスターとの遭遇はなかった。
モンスターというのは海竜なのではと船の中で意見がまとまった。あの見た目と大きさだ、ドラゴン系のモンスターと勘違いされても不思議はない。
「おい、お前たち。さっさと降りるんだ。バルック基金までは少し歩くぞ。」
「バルック基金? バルックって人の名前だと思ってたのに。」
砂を踏んで、颯爽と降り立ったリオンが前髪を払った。彼の声にスタンが間抜けな顔をして首を傾げる。
予想だにしなかった突拍子もない言葉に、アリアは思わず噴き出した。
「人名だってのー。バルックって人が始めた基金ってコト。」
「あ、そっか……えっと、基金って?」
「多分、慈善事業や福祉活動をしていらっしゃるのではないでしょうか。オベロン支社を兼ねているということですし…」
「僕は先に行ってバルックに大体の話を通しておく。」
茹でた蛸のように真っ赤になったスタンが、またもや首を傾げた。それにはフィリアが微笑みながら説明する。
そんなスタンに冷たい視線を向けたリオンは、彼らと視線を合わせようともせずに続けた。
「お前たちチェリクの町は初めてだろう。場所は説明しておくから後から来い。」
「随分優しいじゃないのさ。どういう風の吹き回し?」
リオンの計らいにルーティの眉が寄る。当然、不審に思っているのだろう。
「お前たちのような馬鹿と三日も一緒にいてうんざりなんだ。少し一人になりたい。」
そんなルーティを鼻で笑ったリオンはティアラのボタンを片手に嘲笑を浮かべた。
「それでも僕を優しいと言うのか?」
リオンのその言葉にルーティは肩をすくめると、嫌悪を隠しもせずに思い切り舌を出す。
「前言撤回するわ。やっぱりアンタは意地悪ですよーだ。」
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