Disapper tear

 反芻メモリー






「あれ? 何もないじゃないか!?」
地下の安置室に到着し、辺りを見回したが神の眼らしきものはなかった。
何かあると身構えていたのだろう、スタンが拍子抜けしたような声を出す。


死体の転がる神殿。破壊された青い壁。ヒビの入っている床。

それらを見ていると目の前が赤く染まっていくのが分かった。
しかしその赤の侵略は止まることを知らないかのように、アリアの視界を覆っていく。


『…──!』
焼かれた家、真っ赤な視界の中で手を伸ばす白。
酷いノイズの中、白い衣を纏って、こちらに必死に呼び掛けて、蒼い宝石に悲しい色を浮かべるその人は――…




「…――…アリア!」
「!!」
「どうした? 元気がないぞ?」

マリーの声で我に返った。
頭を振って脳裏にこびりついた焔と視界の赤を思考から追い出す。

過去の記憶のないアリアは、本当にすっぱりと記憶が無くなっているらしいがその断片だけがたまに蘇った。
記憶の断片の中で必ず出会うあの白い人は一体誰なのだろうか。

「ううん! なんでもないよ。」
「…そうか? 無理をしてはいけないぞ。」
「うん、ありがとマリー。」
ほっと息をつくマリーの後ろで、スタンが美しい女性の像を見ていた。
感心したような声を上げるスタンにマリーもその像を見る。彼女も像を見て感心していたが、アリアには引っかかるところがあった。


「……待ってスタン、その人…」
「これは一体…!?」
アリアがスタンを呼ぶのと同時に、アイルツが愕然とした表情で像に近付いていく。
先程ちらりと目に入った時、アリアにはその像に“命”を感じたのだ(何故だかはわからないが)。

「このひと……人間じゃないかな…」
「人間? しかし…」
「確か…石化する攻撃をしてくる奴がいたよね。俺らならともかく、このひとは神殿の関係者っぽいし……」
「バジリスク……そうか、装備もないしかわすことも不可能だな。」
「そーいうこと。」
リオンの声に答えると、彼も納得したようで頷いた。
彼のその様子に安心したのか、アイルツが言う。


「そうです……彼女はフィリア・フィリス。この神殿の司祭です。グレバムの部下の…」
「敵の一味か。よし…石化を解くぞ。」
リオンが小瓶を取り出す。それを持って女性の像へ向かった。



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