Disapper tear

 反芻メモリー




アリアは女性の像を見上げる。
苦しげに眉を寄せて、何かを止めようとしているのか手を差し出していた。


視界を支配したのは、赤。あれは炎。

(なに…これ……)
砂嵐がかかったようにアリアの視界は白黒になる。
その中に映り込んだのは、先程の白いひと。


『早く!』
それに重なる手。多分、自分の手だ。
息苦しさが伝わってくる。火の回りが早いのだろう。


瞬間、視界がぶれた。
背後を見るとそこには鎌を持った男。

『何故だ!何故お前なんだ!!』
その男の髪の色はオレンジ。視界の持ち主は倒れたのか、アリアの視界は地面だけになる。

『   !』
近くで誰かがこのひとを呼んでいる。




(カノンと同じ、色――……?)




「グレバム様! それを…神の眼を持ち出してはいけませんわ! 大変な事になります!!」
「!」
リオンが小瓶の中身をかけてやったのだろう、聞き覚えのない女性の声が鼓膜を震わせた。
その声で我に帰りアリアは女性を見る。若草色の髪を揺らして悲痛な表情を浮かべる彼女の姿が、白黒の視界の中見た人に似ている気がした。



「グレバム様っ!」
「フィリア。」
「アイルツ司教様…?」
尚も叫び続ける女性──フィリアの手をアイルツが掴む。
びくりと肩を揺らしてこちらを窺い見るフィリアは紫色の瞳を瞬かせて、アイルツの顔をまじまじと見つめた。



「フィリア、落ち着きなさい。一体何があったんです。」
「これは…? あの…私は一体…どうしてしまったのでしょう…? この方たちは…?」
落ち着きなく辺りを見渡し、そして知らない人間の登場にフィリアはおろおろとしている。

「王の勅命で神の眼の無事を確認しに来たんだ。神の眼は奪われていたようだけど…あなたが石化していたのを見つけて、石化を解いたの。」
「そうだったのですか……危ないところをありがとうございました。」
「気にしないで。それにあなたから話しも聞きたいし、ね?」
一応簡単に説明をすれば、フィリアは深々と頭を下げた。
そんなフィリアに未だ厳しい視線を向けたままのリオンを見れば、変わらず渋い顔のまま小さく頷かれる。


「…私はグレバム様の下で色々な研究をしていました。色々と言っても古典研究が主なのですが…。」
フィリアは俯いて眼鏡を外すと小さく息をついて、ゆっくりと話し始めた。


要約すればこうだ。


神の眼が奪われた晩はモンスターの襲来に遭い、神殿は大変な騒ぎになった。
フィリアは指示を聞こうとグレバムの部屋へ向かっていたが、途中で彼と会う。そして彼は大司教マートンの命令で神の眼を確かめに行くとフィリアに告げる。
本来なら神殿の奥深くに安置されているものを、大司教くらいの地位ではどうこう出来ない。リオンのその指摘にフィリアは悲しげに眉を下げた。

フィリアがグレバムに手伝いを申し出たところ来るな、と言われたのだという。
それでも心配だったフィリアは彼の後をこっそりとついていくと、安置室は既にグレバムの息のかかった神官たちでいっぱいだった。

グレバムが神の眼を運びだそうとしていると悟ったフィリアは物陰から飛び出して大声で止め……そしてその後おそらく石にされてしまったのだろう。



「くそっ!!」
フィリアの話が終わるとリオンが悔しそうに眉を寄せ、崩れた壁を殴りつけた。
アリアは壁を殴ったせいで出血しているリオンの右手をハンカチで包む。



「ちょっと、血ぃ出てんじゃん。俺、回復術は使えないんだから! やめてよね。」
「あ、ああ……」
「ルーティに無駄遣いさせるわけにもいかないし……ね!」
顔を顰めて呟く。
そのままハンカチを巻きつけ、強く締め上げるとリオンは顔を引きつらせた。


「っ…!」
「痛い? 痛いでしょ? わかったら自分を大事にする!!」

相棒がいたらよかったんだけどなー。
彼の傷口を見ながらそう小さく呟くと、リオンは罰が悪そうに視線を逸らした。



「へぇー…リオンが大人しく手当てされてるなんて……まさか…」
「うるさい、黙れ!」
「きゃぁぁぁっ!」
『学習してね、ルーティ……』
リオンの琴線に触れたルーティが電撃を喰らったのに、アトワイトが彼女の腰で深い溜め息をついたのだった。




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