Disapper tear
運命の歯車は回り出す
打撃音、殴打音とでもいったらいいのか。それを発しているのの要因のひとつが自分の体だなんて信じたくもない。
口の内は不快な生臭さと鉄の味でいっぱいだ。うえー気持ち悪…。
馬鹿な奴等の楽しそうな顔。こいつ等は本当に…城に忠誠を誓ったセインガルド兵なのか?
心の中で毒づいてみても、俺を取り巻く現状は変わらず。両手両足には手枷に足枷、目の前には男五人が俺の姿を見て笑っている。
いくら俺が喧嘩に慣れてて、強いからっても一応女なんだ。男の腕力にかなう訳ない。
……痛いし…。…ここまでかも…。
「こいつ、もう抵抗しないぜ。中々上玉だから俺が最初な。」
ぐったりした俺の二の腕を掴んで起きあがらせた男はニヤリ、と気味悪く笑う。
お前らは女を性欲の捌け口としか思ってないんかい。
そう毒づいたって、俺の心の声なんてこいつらには聞こえないし、聞こえた所で余計油を注ぐだけだろうし。
「ずりぃよ。俺にも……っ!?」
なーんて思っていたら、笑っていた内の一人が顔を引きつらせた。
重い瞼を薄く開ける。
そいつの首元に煌めく何かが突きつけられているのが分かった。……多分剣だろ。そんな形してる。
「そこまでだ。」
甘い音が耳に木霊した。高めで声変わり前の…少年らしき声。女にも聞こえるけど。
ひぃっ、とどちらの男のものか分からない声が聞こえた。
「リ…リオ…ン様…」
ばーか、聞こえないっての。
胸中で俺が呟いた通り、男たちの声は喉のあたりでかすれていてよく聞こえない。
男たちに剣を突き付けている人物が、奴らを強く睨みつけているのがなんとなく分かった。
顔の造りはよく見えないけど、すっごい美人さんだ。黒と紫が印象的。
女なのか、男なのか分かんない。
「貴様ら全員、婦女暴行罪、及び婦女強姦未遂で逮捕する。」
美人さんがそう言い放つ。うーん、随分高圧的な美人だな。
男達は武器を構え、美人さんに襲いかかろうとした。
しかし美人さんは迎え討つつもりらしく腰に差してあった剣を抜き放ち、すっと構えた。負ける、あいつら絶対負ける。
そう確信したけど予想外の出来事が起きた。
黒髪美人さんの前にこれまた美人さんが着地。ってかどっから出てきたんだよ、あの美人さん!
その美人さんは縄で男たちをぐるぐる巻きにしてしまって、にっこりと笑った。
結局、黒髪美人が抜いた剣は使われる事無く彼女(ってことにしておこう)の腰に戻る事になる。剣を戻しつつ、黒髪美人は不機嫌そうだ。
「…手を出すなと言っただろう。」
黒髪の美人はもう一人の美人さんを睨みつけるけど、笑顔の美人さんは悪びれた様子も無く、くすりと笑った。
「すみません、リオン様。」
笑った美人さんは黒髪の美人より高めの、聞いただけで落ち着くような音色で黒髪の美人さん――リオンさん、というらしい――を振り返る。
……ってか俺今日、美人って何回言ったんだろ。
「…城に仕える身で犯罪に手を貸すとはな。……連れて行け!」
「は、リオン様、そちらの少女はいかがいたしますか?」
リオンさん?に命じられた兵は軽く頭を下げ、その後暴行でボロボロの俺へと視線を向けた。
眉根は寄せられているから、心配してくれているらしい。
「こちらでなんとかする。お前達はあの男共を王に引き渡してくれ。」
「はっ!」
今度は深く頭を下げると、兵は縄で縛られた男達を引きずって去って行く。
どの兵士たちも心配げに俺を見て行くものだから、口パクでお礼を言っておいた。
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