Disapper tear

 凍てついたアメジストは





「あちゃー……」
宿の窓から身を乗り出していたアリアは出て来た小柄な少年を見て眉間を寄せる。
どうやらウォルトは彼女たちのことをダリルシェイドに密告したらしい。



ジェノスからハーメンツに到着した一行はウォルトという男の屋敷に向かった。
そこでルーティとマリーがあの遺跡に入った理由が判明する。その男──ウォルトがルーティに遺跡の宝物を見つけてくれるよう依頼したようだ。ルーティは報酬を受け取ってからが鬼だったが、そこは記憶から抹消しておきたいくらいがめつかったということだけ記しておこう。
宿をウォルトに取らせ、その交渉の中でルーティが悪名高い『強欲の魔女』であることが発覚。本当にがめつかった。しかし国に報告する気にもなれなかった。
そんな思いを抱えながら一晩を過ごした次の朝は、アリアの気分に反して天気の良い朝だった。

燦々と降り注ぐ光に気分も軽くなって、窓から外を眺めていたその時。見覚えのある軍団が村に入ってきた。
彼らはどうやらルーティたちを捕まえに来たらしい。そりゃそうかと思って放っておいたがスタンが妙なタイミングで割り込み、ルーティたちに加勢して兵士たちを蹴散らしてしまう。


あいつらやっちゃったよ、どーしよ。
アリアがそう思ったのも束の間、ハーメンツの門をくぐり村へ入ってきた小柄な少年。
そして冒頭に戻る。


「下がっていろ……こいつらは僕が片付ける。」
冷たい一瞥と一言に、隊長と倒れていた兵士たちは震える。短い黒髪は風に舞い、それに映える金のピアスも揺れた。
少年は銀の剣を構える。その切っ先はまっすぐにスタンたちに向いていた。



「あの剣は……」
『シャルティエではないか!?』
『あー……』
「うっそ…」
スタンの声に反応して、彼の目を介してその剣を見たのだろう。ディムロスが声を上げた。
それに対して少年の持っている剣は苦笑するような小さな声を漏らす。まさに彼の心境と自分の心境はシンクロ状態だろう。
任務に失敗して、更に犯罪者の恐喝紛いの現場を取り押さえなかったと知られれば、吹雪のような冷たい一瞥を投げかけられることだろう。

(うっわ、それだけは勘弁…!)
自分で想像した少年の視線に悪寒が走った。


「…まあルーティはがめついけど……いいやつらなんだけどなー…」
下を見れば、少年相手にまだスタンたちは粘っているらしい。
息は切れているがなかなかの腕前のようだ。しかし遂に限界を迎えたのか、スタンがよろよろと後退する。その隙をあの少年が逃すわけがない。
スタンを殺さず、しかし動けないようにどこかを傷つけるつもりだろう。



「あっと、それもダメダメ!」
「あ、お客様…!」
「よっ!」
そう呟いてアリアは、背後にいた宿の従業員が止めるのも聞かずに窓に足をかけてそこから飛び降りた。
大きな音を立てて着地したアリアは、四方八方から視線を投げかけられた。そんな中ルーティがアトワイトを握って、眉を吊り上げる。


「ちょうどよかったわアリア! あのガキ倒すの手伝ってよ!」
しかし、彼女の声はこの際無視してアリアは少年に向かって歩を進めた。少年はその紫水晶を見開く。

「アリア…!?」
「リオン様、報告が遅くなってしまい申し訳ありません。」
少年の前まで行くと、アリアは深々と頭を下げた。
まだ少し高めのテノールが響く。彼はすぐに剣を鞘に仕舞うと、紫水晶を見開いてアリアを見た。


「モンスターの襲撃に遭い飛行竜が墜落しました。ディムロスは……」
「…分かっている。」
アリアの上官ことリオン・マグナスはスタンを睨み据える。その眼光は鋭く、射殺すとはまさしくその眼光のことを指すのだろう。
彼がここにいるということはジェノスで渡した手紙は届かなかった、もしくは入れ違いになったかだ。



「あの男だな。」
視線をスタンに向けたまま、リオンは頷いた。

『アリア! 会いたかったですよーっ!! アリアがいなくなってから僕も坊ちゃんも夜な夜な枕を濡らして………へぶぅっ!』
リオンはいきなり喋りだした銀色のソーディアン──シャルティエを思いきり地面に叩きつけた。
鼻を地面に打ち付けた時のような効果音と共にシャルティエは土に塗れる。
「…シャル…」
地の底を這うような声だ。


『ぐふうっ!!』
リオンはそんなシャルティエのコアクリスタルを思いっきり踏みつける。彼の紫水晶はとても冷ややかな色を帯びていた。
それが向けられなかったことにアリアは安心したが、今はシャルティエの安息を祈ることにした。
ぐりぐりと力を入れて踏まれているシャルティエは声も出ないらしい。コアを踏むと痛いのか、覚えておこう。



『シャ…シャルティエ…か…!?』
しばらくしてからディムロスが感嘆の声を上げたのだった。



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