Disapper tear

 記憶と責任の反比例





「ここも反乱軍の手に落ちたか…?」
「ん、兵が結構いる……ウッドロウはここにいるの危険なんじゃない?」
サイリルを訪れ、ウッドロウは眉を寄せた。呟かれた声にアリアが反応して頷く。
そんなアリアからかけられた声に、リオンも首肯した。ウッドロウはアリアの声に小さく頷くと、門の外を示す。



「私は街の外で待機しているよ。見つかって何かあったら事だからね。」
「わたしもお供します!」
「気をつけてくださいね。」
「ああ、ありがとう。」
フィリアが心配げな声をかけた。
それに優しい笑顔で頷くと、ウッドロウはチェルシーを連れて門の外に出ていく。


「お前たち、見ない顔だな。」
同時に反乱軍の兵士らしき人物が二人、見回りなのか門近くまでやってきた。
そしてマリーに視線を止めると、目を見開く。


「マリーじゃないか!!」
「わたしのことを知っているのか?」
しかし肝心のマリーは目を見開いてきょとりとしていた。どうやら覚えていないらしい。
首を傾げて男たちの顔をじっと見つめている。

「何言ってんだ! 一緒に戦った仲だろ!!」
しかし彼らはそんなこと気にならないのか、もう一人が酷く興奮したような声でこう続けた。



「わたしが……お前と…?」
「二年前の内乱で死んだと思ってたよ!! くそ、こうしちゃいられない!」
それを聞いたマリーは、琥珀を大きく見開いて呆然と呟く。
話を聞く限りこの兵たちとマリーは知り合いで、マリーは亡くなったものだと思われていたらしい。

「待ってろ、隊長に知らせてくる!」
満面の笑顔で踵を返した兵たちはすぐにぴたりと停止した。
そこに他の男が現れたからだ。



「……。」
カノンは無意識に目を細めた。今現れたこの男、他の兵士とは一線を画する。
長い茶髪は寒風にそよぎ、同色の瞳は人の上に立つ者に相応しい品格を湛えている。


(このひと──…只者じゃない…。)
それは理解出来た。


「どうした。何かあったのか?」
「ダリス隊長! ちょうどいいところに!!」
ダリス、と呼ばれたこの隊長は存外柔和な人物らしい。慌てる部下を咎めることなく何があったのか問うている。
自身の目に間違いがなかったことにカノンはひっそりと笑った。


「マ……!」
兵士の慌てぶりに首を傾げた男は、こちらに視線を移す。そこで、彼の切れ長の双眸は見開かれた。
その朽葉色は確かにマリーに向いている。


「誰、だ……?」
「お前…まさか……!」
小さく漏れた声。しかしそれが続く前に男は彼女の異変に気付いた。
首を傾げたマリーを見た彼は、俯く。

唇を痛いほど噛み締めているのが見えた。



「…いや、似てはいるが人違いだ。あいつではない。」
「え……でも…」
「それより、今からハイデルベルグに戻る。二人とも同行の準備をしろ。」
やがて顔を上げた男が言った言葉に、兵の表情が驚愕の色に染まっていく。


「…分かりました。」
懇願にも似たその命。
気付いたのか否か、兵たちはマリーを気に掛けながらもその場を去った。

彼らを視線で見送った男は、冷静な態度でこちらを一瞥する。
しかし視線が確かにマリーに合わせられていて、その瞳の奥には何か…言い表せないような感情が潜んでいた。


「用が済んだらすぐにこの国から立ち去れ。早くこの国から出ることだ。」
「ま、待ってくれ……」
マリーはこの男が自分を呼び醒ますきっかけになると確信しているのか、背を向けた彼を呼び止める。
首だけで振り返った男は、静かにマリーを見ていた。


「お前は……」
「ちょっと、あんたマリーの知り合いなんじゃない?」
「警告はした。次に会ったら容赦しない。」

最後まで瞳の奥に潜めた感情を露わにしないまま、男は歩きだしてしまう。
それを見届けて、カノンは事を静観していたリオンの元へ戻った。


「珍しいね、リオンが何も言わないなんて。」
「僕には関係のないことだ。」
カノンの声に目を伏せ、シャルティエの柄を撫でる。
長い睫毛が伏せられる様は酷く優雅だった。


「どう思う?」
「……おそらく関係者だろう。」
「そうだね……」
主語がなくても会話が成り立つことに、内心笑ってしまう。
それほどまで彼と自身は共にいたのだ。



(彼……悲しそうな顔してたな…)
立ち去った彼の表情を思い出して、心中で小さく呟いた。


「お前……!」
「リオン、どうしたの?」
「……いや、なんでもない。」
声に出してしまったのだろうか、リオンが驚いた様子でこちらを見ている。
なんでもないような笑顔を作ると、彼は怪訝な顔で首を振った。

 


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