Disapper tear

 守りたいのは誰か




「わあぁっ!」
「スタン! ……あの馬鹿…。」

ばしゃーん。

バティスタのいる玉座の間に向かう途中、水の力を受けてぐるぐると回る水車の上を渡っていた一行。
最後尾にいたスタンは、見事に足を取られて水の中へと転落した。
スタンの名を呼んだリオンだったが、ぶくごぼぶくぶーくとしか聞こえない返答を聞いて盛大な溜め息をつく。
おそらく、あの重い鎧を身につけているために沈んでしまって動けないでいるのだろう。


「俺、行ってこよーか?」
「いや待て。…マリー、奴を引き上げてくれないか。」
「よし、分かった。任せてくれ。」
スタンの引き上げに名乗りを上げたアリアだったが、リオンは力の強いマリーにスタンの回収を依頼した。
依頼されたマリーはそれをにこやかに快諾し、スタンのマント(と少量の髪)をがしりと掴んで引き上げにかかる。

水の中から「ごぼっ!? ぶくぶーくぶく!? ごぼごぼごぼごぼ!!」とかなんとか聞こえるが、全員気にしない方向だ。
ちなみにジョニーはその光景をにこやかかつ爽やかな笑顔で見つめている。


「この辺で休憩しない? みんな疲れてきただろうし。」
「そうだな……。」

ルーティの提案にリオンも頷く。
どちらにせよスタンの引き上げが終ったところで、スタンはしばらく水浸し。重くて動けない。
ならばここで休憩し、全員の体力の回復を図るべきかとリオンは考えた。

敵地のど真ん中で休憩するというのもこの一行(の図太さ)でなければできないだろうが。



「仕方ない……休憩にする。ここはモンスターも兵士もいないからな。」
「オッケー! マリー、手伝うわよー!!」

リオンが頷くとルーティは早くもマリーを手伝いに行った。
ジョニーはその場に腰を降ろし、その光景をにこやかに見つめている。新曲のネタにでもするのだろう(証拠にリュートを持っている)。
アリアもマリーに引き上げられているスタンを覗き込んでいるし(でも手伝わない)、リオンも本を取り出す。

フィリアは真っ青な顔でその場に座り込んだ。それを見たカノンはフィリアの隣に腰を降ろす。




「フィリア、」
「カノンさん……。」
「疲れたかな?」
「いいえ、大丈夫ですわ。」
心身ともに疲れきっているだろうに、フィリアは健気にも微笑んだ。
クレメンテが心配そうな気配なのは回りの人間も気付いていたはずだ。だからルーティが休憩しようなんて言い出したのだろう。

「バティスタのことだね?」
「…はい……。」
「そんなに君が気に病むことじゃないよ。」
「でも……」
まだ言い淀むフィリアに、カノンは微笑んだ。
その笑顔にはどこか有無を言わせぬ威圧感があって、そしてその威圧感を感じない違和感もある。


カノンの笑顔に知らず知らずのうちに頷いてしまうのは、これが原因なのか。
それは本人にすら分からないのだから、きっと周囲の人間にもずっと分からないのだろう。





「絶対に、救う。」
「え……?」
「それでいいじゃない。」
そんな笑顔を浮かべたまま、カノンは目を閉じた。
一瞬だけカノンの睫毛が寂しげに震えたが、すぐにそれは微笑みに打ち消される。


「……!」
きょとりと目を見開いていたフィリアは、次第に意味が分かってきたのか双眸に涙が滲み始めた。
カノンの手を握って俯いたフィリアの若草色の髪を、カノンは優しく撫でる。



「ありがとうございます、カノンさん……」
「うん。」
その時カノンが本当に優しく微笑んでいたのは、また別のお話。
 


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