Disapper tear

 枝垂れ桜




「急がないと…! 貴族はともかくちびっこ達が…!!」
街中を走るアリアを阻止するかのようにモンスターが集まって来る。アリアは晶術を使うべく、両手へと晶力を集中させた。

「──我が元に集いし炎、阻みし者を貫け!」
手のひらに熱い炎の晶力が集まってくる。右手を構えると、彼らの力が周囲に陣を描いた。


「フレイムランス!!」
それに気付いて一斉に向かってくるモンスターたちに向かって、炎の槍を放つ。
晶力で形成された巨大な槍は、落ちると周囲のモンスターを焼き尽くした。これで少しは数が減ったはずだ。


「これは…!?」
『このモンスター共、もしやグレバムに操られているのでは?』
『その可能性は高いのぅ。普通モンスターは組織立って人間の街を襲ったりしないものじゃ。』
遅れてやってきたスタンが目を見開く。彼の手に握られているディムロスが言った。
それにクレメンテが同意する。

「こっちよ、早く闘技場へ……!」
「イレーヌ…」
「イレーヌさん!」
「貴方達……お願い! 街の人達を誘導して!」
街の入り口からイレーヌが街の人々を連れて闘技場へ避難するよう指示する。
リオンとスタンが驚愕の声を上げると、イレーヌは焦った様子で泣いている子供を抱き上げた。




「助けて! 助けてちょうだい!」
「!?」
「どきなさいよ! 貧乏人の癖に邪魔よ!」
声のした方向を見れば、貴族らしき女性が逃げて来た。
そして、イレーヌの傍に居た貧民であろう少年を突き飛ばす。女性の心ない言葉に少年が涙を浮かべた。
しかし健気にも立ち上がって彼は貴族の女性に道を譲ろうとする。そんな少年の前にアリアは立って、女性を見た。


「あんただって一人の人間だろ。」
「なによ貧乏人! 早く退きなさいよ!」
アリアを怪訝そうに見る女性の目を見る。女性は一層機嫌を悪くしたのか、アリアを睨みつけた。
命の危険の時に貧乏とか裕福とか言ってるような人間は、アリアの一番嫌いな人間だ。


「命に金持ちも貧乏も関係ないじゃん。モンスターはそんなこと関係なく人を襲うだろ。」
「貧乏人のくせに私に指図しようっていうの!?」
「あんたたち貴族の命も、貧民街の子たちの命も、みんな同じ大事なものだよ。」
「うるさいわね、とにかく早くそこをどきなさいよ! この貧乏人!!」
この状況でもまだ裕福なのを盾にするつもりなのかとアリアは溜め息をついた。仕方がないのでとどめを刺すことにした。
さすがに自分の身分を明かせばこの女性だって大人しくなるだろう。


「あんた、貧乏人しか言えないの? 貧乏のこと蔑むにももっとレパートリー増やしたら?」
「なんですってこの……!」
「俺がいつあんたよりも裕福じゃないって言った? 人の話は最後まで聞くって習ったでしょ。」
「はぁ?」
反抗的な態度の女性に、貼り付けた笑顔を向ける。これはアリアの営業用の笑顔だ。
よく同僚の剣士たちからは怒らせたくないと言われるから、初めて見る女性には相当な威圧感を与えられるだろう。



「俺はアリア・スティーレン。セインガルド国王から客員剣士の称号を頂いてる。」
「……え…アリア様……?」
「文句があるならダリルシェイドの謁見の間まで言いに来な。ってもあんたの顔は覚えたけどな。」
「…お、覚えてなさいよ!!」
顔を真っ赤にして走り去っていく女性に、顔の緩みが止まらない。
自分はお世辞にも性格が良いとは言えないから、ああいうことをするのは大好きだ。背後で呆気に取られているスタンたちの中で、リオンだけが小さな溜め息をついた。


(ごめんリオン。嫌いなものは嫌いだし、そんな馬鹿どもを図に乗らせるのも大っ嫌いなんだ。)
少なくとも自分はそういうことは許せない。馬鹿は一回痛い目に会えば良い。

いつもいつも優しいひとが苦しむ。
どんなに頑張ったって優しい人たちが報われることはなく、得をするのは馬鹿で自分のことしか考えていない連中だけ。


アリアはそんな現実に、常に憤りを覚えていた。
だから、自分はそんな馬鹿どもをひっかいてやる。少しは痛い思いをしている人間の身になればいい。…そう、思いながら。



「大変だ! 誰かが闘技場のモンスターを解き放ったぞ!」
「なんですって!?」
「俺達も戻ろう!」
一人の男性が叫んだ。
イレーヌがいち早く反応し、闘技場へ向かう。それにスタンたちも続いた。
アリアはそのまま座り込んだ男性に駆け寄る。


「大丈夫?」
「ありがとう、大丈夫だ。」
「闘技場のモンスターって?」
「言った通りだ。闘技場は腕試しのためにモンスターもいるんだが……その檻を誰かが壊して開けたらしい。」
「ありがと、あんたはこのまま安全なところに!」
頷いた男性と別れて、アリアは闘技場へと向かうのだった。



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