Disapper tear

 彼と彼女のゴシップトーク




「……」
船の中など、リオンにとっては地獄でしかない。
絶えず揺れる床に、回る天井。そして極めつけは三半規管を直撃する浮遊感だ。


「ところでさ、」
金髪の馬鹿が呑気な声を出す。
先程から無言を貫いているリオンは、目の前の連中に心からグレイブをかましてやりたい。
リオンがそう考えているとは塵ほども感じていないだろう金髪の馬鹿──スタンは続けた。

「さっきルーティが言ってた客員剣士ってさ、もしかしてヒューゴさんの屋敷でレンブラントさんが言ってたカノンって人か?」
「スタン……いきなりどうしたのよ?」
スタンの声にルーティが呆れたような声を出した。
それはリオンもまったく同じ心境だが、それにも気付かないのかスタンは間抜けな顔を更に間抜けにして続ける。

「そのひと、どっちもカルバレイスにいるっていうし……同一人物なのかなって。」
「あんたねー…別に良いじゃない。カノンって子がその客員剣士とイコールだったとしても、あたしたちには直接の関係はないわ。」
「だってアリアの友達なんだろ? だったら俺たちにも関係あるよ。」
「は?」
ルーティが訝しげな顔でスタンを見る。その顔が意味する言葉と言えば「こいつは何を言ってるんだ」といったところか。
一方、話の渦中にいるはずのアリアは我関せずといった空気で窓から見える海を眺めていた。


「アリア!」
そんな彼女の背中にスタンの声がかかる。声が聞こえたのか、アリアはこちらを向いた。
その赤い瞳は相変わらず心を見透かされそうな透明さを含んでいて、少し苦手だ。

「なに? どしたのスタン?」
誰が自分を呼んだのを認識したのか、彼女はスタンに笑顔を向ける。
そんな彼女にスタンも人の良い笑顔を浮かべて首を傾げた。

リオンは思う。男が小首を傾げても可愛いことなど万に一つもあり得ないと。



「あのさ、さっき港で話してた客員剣士ってカノンって人なのか?」
「うん、そうだよ。それがどうかした?」
「あ、やっぱりそうなのか。なんかどっちの話でもカルバレイスにいるって聞いたし。」
「あー、そういやそうだね…あいつのこと知らない人からすれば違う人に聞こえるのか。」
スタンの声にアリアが答える。
周囲を窺えば、好奇心の隠し切れていない目が八つ。それが分かっているのかアリアも苦笑いしている。


「カノンは線が細くて華奢な子でさ、自分のためにお金なんてほとんど使わないんだ。街の人が何かを訴えてきても相手にしないやつが多いんだけど、カノンはその場に膝をついて同じ目線でちゃんと聞いてあげるの。」
「まあ……立派な方ですのね…」
「でしょ? 寄付するのも貴族なんかには全然してないよ。カノンがお金を寄付するのは生活に困ってる孤児院や貧民街。街の子供をとても可愛がってて、街中歩いてるときとか抱き着いてくる子供を邪険にしないで相手してるんだ。」
「へー……なんかすごいな。」
「えへへ、俺の一番尊敬する人だもん。」

フィリアとスタンの感心した声に、アリアも笑う。
カノンと仲の良いアリアは彼のことをとても大切に思い、そして思われている。
恋人だと噂する者も多いが、リオンは彼と彼女は家族のようだと思う。

赤と青の色が印象的な二人。
リオンには介入出来ないどころか、視認することすら出来ない確固たる絆。
何故かはわからないが、二人はそれで結ばれているような気がする。

排他的な強い絆。他人を寄せ付けない強い信念。
それはどこから感じるのか、自分でも理解出来ない。



「……」
窓の外に視線を移したリオンは、どこまでも続く青に少年のサファイアを思い出す。
どこかで彼に会えればいいと思いながら、迫る浮遊感にリオンは意識を手放した。

 


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