Disapper tear

 反芻メモリー






「ディムロス?」
そんな時、スタンがディムロスを見た。
動揺するディムロスの心情がマスターであるスタンには伝わったのだろう。彼の声に、アリアもディムロスを見る。
全員からの視線が集まり、スタンがどうしたのかと訊ねるとディムロスは言う。

この世界は一度神の眼の力で滅亡の危機に晒された、と。




「案ずるなディムロス。」
『リオン?』
「このままにはしておかないさ。必ず取り返す。お前ら、それまでは死んでも働いて貰うからな!」
リオンがスタンたちの方に向き直って言い放つ。その紫水晶には強い覚悟が滲んでいた。


「しょうがないわね。最後まで仕事しないとヒューゴに報酬貰えないもの。そうでしょ?」

スタン、マリーも頷いて同意したとき、それまでじっと何か考えていたフィリアが、胸の前でしっかりと指を組んだ。
そして何か言いたそうにあの、と声をかけてくる。



「どしたの、フィリアさん?」
アリアには彼女が何を言うのか予想はついていたのだが、あえて笑顔で聞いた。


「…私も連れていっていただけないでしょうか…?」
「駄目だ。敵のスパイを連れていけるか。」
「私は大司祭様を止められなかった自分が悔しいのです。責任も感じています。何より私には司祭として神の眼を守る使命があるのです。ですから……」
「口では何とでも言える。」
アリアがリオンを見やれば、彼は厳しい視線のままフィリアの言葉を一刀両断する。そして懸命に言葉を発するフィリアの、まだ続くはずの言葉を遮った。
震えるフィリアの目元にじわりと涙が浮かんだのを見たアリアは、まだ言葉を続けようとしているリオンの足を踏む。



「…!!」
「ルーティ、」
リオンが怯んだ隙に何かを言おうとしていたルーティを促す。ルーティは小さく頷くとフィリアに優しげな視線を向けた。

「あのね、フィリア…だっけ? あたしはルーティ。」
彼女の前まで歩み出たルーティはフィリアの目をしっかりと見つめる。
気の強いローズクォーツには打算や謀略の色は見えない。

「あたしたちそのグレバムって奴と戦うかもしれないのよ? 場合によっては殺してしまうかも…それでもいいの?」
「…仕方ありませんわ。」
訊ねるルーティは一人の人を心から心配している。
本当に強欲の魔女という通り名で通っている少女なのかと疑う程に、彼女はフィリアを心配していた。
そんなルーティの問いかけに眉をひそめながら頷くフィリア。

どうやらフィリアの意思はかなり固いらしい。梃子でもついてくるつもりらしい。
神官にしては珍しい、強い意思の持ち主ようだ。覚悟を決めた双眸はとても綺麗で美しい。


「…そう。じゃあ一緒に行きましょ。」
その目を見て折れたのか、ルーティが微笑んで言った。


「おい! 罪人の分際で勝手に決めるな!」
「はいはーい!」
「ぐっ!?」
なおもフィリアの同行を認めないリオンの足に、本日二回目のかかと落としをお見舞いする。
よろよろとよろけたリオンに畳みかけるように言葉を投げた。


「リオン。フィリアはグレバムの顔知ってるんだよ?」
「く……!」
「部下だったんだし、俺たちの知らない情報も知ってるんじゃない?」
「なるほど。フィリアが居ればグレバムに一歩も二歩も近付けるって訳か。」

マリーが頷いてスタンが感心している。さすがにリオンも反論できないようだ。
あと一歩。もう少しで押し切れる。
そう確信したアリアはさらに言葉を続けた。


「彼女はかなり博識みたいだし、戦闘要員でなくても十分連れて行く価値はあるんじゃない?」
「……わかった。」

リオンが溜め息をついた。これは彼が折れたという証拠だ。
アリアは満面の笑みでガッツポーズをとり、フィリアに視線を向けた。

フィリアは小さい声で感謝を述べる。
それに手を振ることで答え、アリアは部屋を出た。




渋々フィリアの同行を認めたリオンは“今後一切、敵であるグレバムを大司祭と呼ばない”とフィリアに誓わせる事を忘れなかった。
 
 


prev / next

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -