Disapper tear

 静寂の中で思うのは






「あれ? まだ誰も来てないんだ。」
結界のある部屋まで戻ってくると、まだ誰の姿もなかった。
仕方がないので階段に腰掛ける。静かな空間にひとり取り残されたような気分になった。


「……静か、だなぁ。」
小さく呟けば、静かなこの空間に反響する。天井はかなり高いようだ。
ふうと息を吐き出して、磨き抜かれた床を見る。僧たちがいつも綺麗に磨き、掃除しているのだろう。


(元気かなー…。)
思うのは友人の少年──カノンのことだ。
彼は若くして王からの多大な信頼を得ているために、危険な任務に就くことも多い。
そして今回彼の赴任先は気候が激しく、住民たちの目が冷ややかだと言われるカルバレイスだ。

無事を祈って、ポケットの中のブレスレットを握り締めた。
カノンの分をリンカから受け取ったリオンに、持ってろと渡されたものだ。


「…あ…」
しばらくそうしていると小さく足音が聞こえた。
顔を上げれば見えたのは青い制服と桃色のマント…リオンだ。悠々と歩を進める彼に軽く手を振れば、彼も気付いたのか小走りでこちらに向かってくる。

「お前が一番早かったのか。」
「うん、そうみたい。」
『大丈夫でしたか? どこか怪我とかしませんでした?』
「へーきへーき。ありがとねシャル。」
リオンの声に頷く。シャルティエの心配そうな声に笑いがこみあげて来た。
彼は非常に心配症なのだ。


「二人とも!」
そこに声がかかった。振り返ると炎のような赤毛が揺れる。
現れたのはマリーだった。


「マリー。」
「早いんだな。」
アリアが彼女の名を呼べば、マリーは穏やかな笑顔のままこちらに歩いてくる。
それにリオンが小さく舌を打った。


「……奴らはまだ来ないのか…」
おそらく奴らとはスタンとルーティを指しているのだろう。
マリーはこんなに早く来たというのに、共に同じ方向に向かったあとの二人は何をしているのだろうか。

「おーい!!」
そう思っていたら目立つ金髪がこちらに向かってくるのが見えた。
驚いて目を凝らせば、そこにいるのはスタン。彼は抜き身のディムロスをぶんぶんと振り回し、こちらに手を振ってくる。

「ちょっと、抜き身は危ないって!!」
「スタン、しまった方が良いぞ。」
「あ、そっか。ごめんな。」
アリアの声にマリーも同意する。注意されたスタンは素直に謝罪の言葉を述べながらディムロスを鞘へと収めた。
残りはルーティだ。彼女とリオンは非常に仲が悪い。

故にリオンが怒っている原因の割合は彼女の方が大きそうだ。
スタンが来ても彼に嫌みや皮肉を言わないことが何よりの証拠でもある。


「スタン、よかったね。」
「え? なんで?」
「最後じゃなかったよ。」
「え、本当か? 俺が一番遅いと思ったのに……」
「あの女は途中で別れたのか?」
「うん。ここから手分けしようってルーティが…ね、マリーさん。」
「ああ。」
「……はぁ…」
スタンの声にリオンが振り返る。その目には呆れの色が存分に含まれていた。
溜め息をついて彼は腰に手を当てる。
同時に最後の結界石が壊れ、それに気付いたリオンはさっさと目の前の扉を開けようとした。

「おいリオン、このまま行っちゃうのかよ。ルーティは…」
「待つ必要はない。」
「でも…」
スタンの声をリオンはばっさりと斬った。
モンスターの中にはレンズと一緒にガルドを飲み込んでしまったものも存在し、そういうモンスターを倒してガルドを得ている者も多い。レンズハンターなどはそういうお金も貴重な生活費だ。
ましてやルーティなんかは強欲の魔女の名の通り、お金となると目の色を変えて(しかも開き直って)収集を始めるのだからたちが悪い。


「正気に返るまでに、僕たちが戻ってくるかもしれないしな。」
溜め息をついたリオンの視線の先には、膨らんだ麻の袋に頬ずりしながら近付いてくるルーティの姿があった。



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