Disapper tear

 聖母のような彼女の瞳こそ、




「たぶん、ヒューゴ邸……だよね。」
先に行ってしまっただろうスタンたちを追いかけて、アリアはヒューゴ邸に足を踏み入れた。
この屋敷にはアリアもお世話になっているので勝手は分かっている。
二階に続く階段を駆け上ると同時に女性の悲鳴が聞こえてきて、上から人が落ちてきた。

「うっわ、あぶな…!」
「きゃっ……」
急いでその女性を受け止めようと手を伸ばす。
ぽすんとアリアの腕に収まったのは想像していたメイドの誰かではなく、黒髪が印象的なルーティだった。


「あれ、ルーティ?」
「アリア…」
「大丈夫? 怪我してる?」
「平気よ、ありがと。」
顔を覗き込んだアリアに驚いている様子だったが、ルーティはにこりと笑いかけてくれる。
階上からとたとたとマリーが駆け下りてきた。


「大丈夫か、ルーティ。」
「ええ、ちょうどアリアが助けてくれたわ。」
「そうか、ありがとうアリア。」
「どーいたしまして。」
アリアがそう言って笑顔を作るとひょっこりと見覚えのある白髪の紳士が現れる。
紳士はこちらに気付くと長い眉を持ち上げて穏やかな笑顔を浮かべた。


「レンブラント爺ちゃん!」
「アリア様、お帰りなさいませ。」
「ただいま!!」
「アリア様はいつでもお元気ですなぁ。」
「それだけが取り柄だもんさ。」
アリアの声にほっほっほと笑う。そして階上から先程の面々が顔を覗かせた。
スタンが目を丸くしてこちらを見ている。彼にも声をかけようかと思ったが、レンブラントが手を叩いたのに気付きそちらを見た。



「カノン様も心配しておいででしたよ。」
「カノン?」
突然出てきた名前にスタンが首をひねる。そんなスタンを押し退けてリオンが前に出た。


「そのカノンはどこにいる?」
「先日、王のご命令でカルバレイスにいるバルック様の所へ向かわれました。」
「カルバレイスか……」
レンブラントの声にリオンが呟く。

カノンというのはアリアとリオンの共通の友人だ。
線の細い少年剣士で、過酷な任務もあっさりこなして帰ってくる彼は王からの信頼も高かった。ダリルシェイドの住民たちにも人気で、彼に憧れを抱く少年少女も多い。

そんな彼は別件で他の地方に遠征に行っているらしい。
久しぶりに会えると思っていたのに、まだしばらくは会えないようだ。



「アリア様の事をとても気にかけていらっしゃいましたよ。出発する前もそれだけが心残りだったようで……手紙でアリア様のご無事をお知らせしますか?」
「あ! そだね、頼んでいい?」
「承知いたしました。」
アリアの声に人好きのする笑顔で頷いたレンブラントはリオンに深々と頭を下げると、そのまま階下へ降りていく。
それを見届けると、ヒューゴの書斎に向かう一行を追いかけた。
 


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