Disapper tear

 赤い実を選り分け巡り会う





「これから、どうしよう……」
アリアは呟いた。
通信手段も断たれてしまった以上、どうにかしてダリルシェイドと連絡を取らなければならない。


今回のアリアの任務は貨物庫の中に安置されていた剣──ソーディアンの護衛。その剣の名前はソーディアン・ディムロスという。
ソーディアンは古代の遺物であり、ディムロスはこの度遺跡で発見された。そしてその輸送において古代の遺物を狙ってくるという王の憂慮でアリアが護衛に就いたのだ。

スタンはディムロスの声を聞き、意志の疎通が出来る。そして名を教えてもらい契約したという。
そうなると必然的にスタンはディムロスのマスターということになる。ならばディムロスの護衛が任務のアリアはディムロス、そしてそのマスター・スタンを守らなければならない。
今やマスターを得たディムロスが文句を言わずダリルシェイドに来て、古臭い王宮の中で大人しく歴史の遺物として管理されるなど到底思えない。
そうなったら彼は意思を宿しているコアクリスタルを即座に閉じ、意識をシャットアウトしてしまうだろう。



(ホントは…俺が、マスターになるはずだったのに…。)
ソーディアンは一般的には全部で六本存在し、その声は才ある者にしか聞こえない。
それはアリアも体験しているしその光景も目撃しているので確かだ。現にアリアは他のソーディアンの声を聞くことが出来る。
アリアはソーディアンを扱うための才能を持っているため、ディムロスの使い手として王に国家の保有物である彼を使うことを許された。ディムロスがダリルシェイドに届き次第、アリアが使い手になってもいいという許しが出ている。

自身が使うことのできる術よりも強力な術が使えるようになること、なによりアリアはディムロスと会うことを楽しみにしていた。そして飛行竜護衛の任務に就いた矢先、墜落したポッドでアリアが気を失っている間にディムロスはスタンをマスターに選んでしまった。


(羨ましい……か。あんまりそういうの思いたくないなぁ。俺は俺、スタンはスタン……だし。)
羨望。これは自身があまり好まない感情だ。
スタンを羨ましがる余裕があったら、自分はそれ以上に剣を磨けばいい。しかし、アリアは女。どうあがいたって限界はある。

(……でも、)
今はいい。だが、もしその限界に到達してしまった時にスタンが自分の遥か先に行ってしまっていたら……?
友人たちが、そのスタンの遥か先にいたら?


「……っ!」
背中に悪寒が走った。頭を振ってその考えを払拭する。

「…ん? あ!」
その時、視界の端に映ったのは門。
確かこのジェノスはセインガルドとファンダリアを隔てる門のような役割を果たしていたはずだ。

「…いや、待てよ…俺、通行証ないや…」
通行証がなければ入ることが出来ないし、出ることも出来ない。
ウッドロウはスタンが通行証を持っていると思って抜け道からこの街に入ってきたのだろうが、密航してセインガルドに行こうとした田舎者はその通行証の存在すら知らないだろう。



「……あの、ちょっといいですか。」
「どうしたんだお嬢ちゃん?」
泣きそうになるアリアは仕方ないと肩を落としながらも門番に近付いた。門番の一人がアリアに気がついて目を丸くする。

「えっと、簡単に言うと通行証欲しいんですけど……」
「入ってくる時に貰わなかったのか?」
「えーと……」
「…不法入国、か?」
言葉を濁したアリアに門番の男は眉を寄せた。それはそうかと溜め息をつきつつアリアはポケットからブローチを取り出す。
それを彼に見せた。


「それは王がアリア様に与えたといわれる…」
「ども、その張本人アリア・スティーレンです。」
居心地の悪さに視線を逸らしつつそう言うと門番は目を見開いた。

「……飛行竜任務についていたはずでは……!?」
「詳しくは言えないけど、理由があって……通行証の交付と俺の上司様にこの手紙を頼みたいんだけど、だめですかね?」
「もちろんです。」
お願い、と両手を合わせると門番は即座に頷いた。
手紙を受け取ってくれた彼はすぐにきつく目を閉じて土下座でもするような勢いで頭を下げる。


「客員剣士様とは知らず、ご無礼をお許しください!」
「そんな畏まらないでいいっす! 頭上げて…!」
「ありがとうございます。すぐに持って参りますのでお待ちください。」
通行証を取りに詰所らしき場所に入って行った彼を見届けて、小さく溜め息をついた。
これだから肩書きを使うのは嫌なのだ。周囲の人たちはこの肩書きだけで自分に対する態度を変えなければいけないのだから。

「アリア様、これをどうぞ。」
「ありがとう。それと…このことは内密にしてほしいんだ。」
「分かりました。お気をつけて。」
見届けられて彼の視線が離れたことを確認すると宿に入る。そこにいたのはスタンと……妙齢の女性の二人組だった。




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