Disapper tear

 紅い瞳は閉じられて




それから四日。



「うあーっ!」
やっと書類が終わり、俺は伸びをした。
背中がぼきぼきと音を立てて、思わず溜め息が出る。
隣で本を読んでいたリオンが視線だけをこちらに向けて、足を組みかえた。
うっ……リオン、足ものすっごく長い…なんか負けた気分になってくる。


「やっと終わったか。馬鹿者め。」
「馬鹿って言うなぁっ!」
「同じ量で僕の方が後から始めたのに、お前の方が一日遅かったが?」
「うっ……!」
確かに俺は書類整理には向いてない。
だってずっと文字とにらめっこしてると、眠くなってくるんだもん。学業は嫌いじゃないけど。
だからリオンの部屋にお邪魔して、こうして頑張ったんじゃん。


「やる気になればすぐに終わるのだからさっさと終わらせればよかったものを……」
「仕方ないじゃん! ずっと文字見てると眠くなるんだもん!」
『アリアは勉強できないわけではないですし、ちゃんとやればいいのに……』
「うっさいなシャル! 仕事と勉強は違うのー!」
こんこん。
俺がそう叫んだところでドアがノックされた。
ノックの音を聞いただけで分かる。控えめに邪魔にならないように配慮されたノックをしたのは、リオンも俺も大好きな美人で優しい黒髪のメイドさんのはずだ。


「どうぞ、開いているよ。」
「失礼致します。」
リオンが返事をすると、やっぱり予想通りの人が入ってきた(というかリオンの返事の仕方で誰かわかるんだけどね)。
お盆にお茶菓子とティーセットを乗せて、慈愛に溢れた笑顔を見せたのはメイド長のマリアンだった。

「あっ! やっぱりマリアンだった!」
「あら、わかっちゃった? そろそろお茶が恋しくなるかしら…と思って。お邪魔だったかしら?」
「そんなことないっ! 手伝うよー!」
うふふって茶目っ気たっぷりに笑ったマリアンは歩いてきた。
急いで彼女の手からお盆を受け取る。
ありがとうとお礼を述べられて、照れくさくなってうへへなんて不気味な笑いをもらしてしまった。
リオンが変な顔をしている。悪かったな気持ち悪い顔して。

「こうしてお茶をするのは久しぶりね。」
「そうだね、ずっと旅に出ていたから……」
「確かに、あんまりこういうゆっくりした時間はなかったかもね。」
マリアンがポットから紅茶をカップに注ぐ。カップを温めるとかの面倒な下準備は部屋に来る前に済ませてきたんだろう。
品の良い香りが部屋中に広がる。茶葉の種類は詳しくないしわからないけど、とってもいい匂い。ミルクを入れてもおいしそうだなぁなんて思った。


リオンは既に着席していた。いつの間にか本も閉じて、行儀よく座っている。速いなぁ。
それもそのはず、今日のお菓子はクリームのたっぷり使われた苺のショートケーキ。
甘いもの大好きなリオンがつられないわけがない。

「どうぞ。」
「いただきます。」
「いただきます!」
マリアンが取り分けてくれたそれを受け取って、フォークを口に運ぶ。甘いけどさっぱりした後味のクリームと、甘酸っぱい苺の相性が絶妙で…うあああ最高すぎる。
くー美味しいぃぃ……。

「どうかしら? クリームがくどくならないように気を付けてみたんだけど……」
「すっごい美味しい! 苺も甘酸っぱくてさ、クリームと合ってると思うよ。」
「そう、よかった。アリアは甘すぎるのが苦手だから工夫してみたんだけど、正解だったみたいね。」
「ってことはリオンのは味違うの?」
「ちょっとだけだけどね、アリアのケーキより甘いと思うわ。どうぞ。」
マリアンが笑いながら紅茶の入ったカップを前に置いてくれた。
白いカップに注がれた紅茶は夕日みたいな色をしていた。
カップに口をつけるといい匂いが鼻に染み渡る。ゆっくり味わうように口に含んで飲み込めば口の中にもお茶の香りが広がった。

「おいしいー……ほわんとするねぇ…」
「……ふふ、気に入ってくれたみたいで何よりだわ。」
マリアンはリオンの方を向いて、嬉しそうに微笑んだ。
リオンは静かにケーキを食べていた。ただし目がきらっきらしている。
つまり、夢中になってケーキを食べていたというわけだ。


笑顔のマリアン。ケーキに夢中になるリオン。
そんでそれ見て幸せな気分になって、胸が痛むことにはこの際蓋をして幸福に浸る俺。

楽しい時間だったけど、そういう時間っていうのは過ぎるのが早いものだ。



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