Disapper tear

 紅い瞳は閉じられて




「さて…そろそろ行くね。いつまでもここにみんな集まってたら色々困っちゃうだろうから。」
持っていた鞄に貰い物を仕舞い終わったらしいカノンがそう言って立ち上がった。
名残惜しさを感じながらカノンを見る。銀髪は日に照らされてきらきら綺麗に光った。
海の色をした宝石みたいな目は初めて見た時からものすっごく強烈に記憶の中に残っている。
しばらく見れなくなるのはさみしいなあ、なんてのんきな感想を抱いた。


「そっかー…さみしくなるなぁ」
「ふふ、そう言ってもらえるとなんだか照れちゃうね。」
思ったことはそのまま口に出ていた。
それを聞いてカノンは優しく笑うと、俺の手を掴む。驚いて手を見ればカノンは両手を包み込むように握ってくれた。
カノンにしては珍しい、真剣な顔。その顔を見たら胸の奥がざわざわして、さっき感じた不思議な感覚が緩やかに広がっていく。

「アリア、気をつけてね…。」
包み込んだ両手をおでこに当てたカノンはそっと目を閉じた。長い睫毛が真っ白なほっぺに繊細な影を落とす。うおお、美人だ。
整った顔を観察していると、ギャラリーからわあっと(きゃあっと?)歓声が起こる。な、なんだよ…なんでそんなにきらきらした目で見てくるんだよ……。


「俺よりもカノンの方が心配だよ。気を付けてね?」
「ありがとう。」
顔を上げたカノンに俺は笑いかけた。胸の中でもやもやしているこの不安をかき消すように。
その目論見はどうやら成功したみたいで、カノンはいつもの綺麗な笑顔を見せてお礼を言ってくれた。

「……?」
「……」
「…リオン、」
でも、ここで不機嫌そうなリオンに気付いたカノンはきょとんとまばたきする。リオンの気持ちがわかったのか、ふっと笑ったカノンは名前を呼んだ。
無言のまま視線だけをじろりと向けたリオン。相当面白くないらしい。

「あははっ…やだなぁ、やきもち?」
「やかましい。……なんだ。」
「君も、気をつけて。」
「……ああ。お前もな。」
二人のやり取りを聞いていて、本当に仲が良いんだと感じた。リオンをからかっても許されるのはカノンくらいなものだと思う。
素直じゃない、とか思っているんだろう。くすくす笑ったカノンは、リオンの横を通り過ぎた。



「―――……――…」
「な――っ!? カノン!」
「ふふ、それじゃあね。行ってきます。」
すれ違う時、リオンにしか聞こえないくらいの声で何かを囁いたカノンはそのまま歩いて行ってしまう。
呼び止めようとするリオンの声も完全スルーして、カノンはいたずらっ子のような笑顔を見せて街の出口に向かっていった。

「行ってらっしゃい!」
叫ぶようにそう言うと、頭だけこっちを向いたカノンは笑顔のままひらひらと手を振る。
住人の声は、カノンが見えなくなるまで続いた。


「……」
「……!」
カノンの姿が見えなくなって振っていた手を下した。リオンはカノンに何を言われたのか気になる。
(なんて言われたんだろ?)
聞こうと思ってリオンを見ると、無言で視線を逸らされた。これじゃしばらく教えてくれそうにないなぁ。

まあ、いつものように一枚上手なカノンにからかわれただけだと思うけど…それにしてもリオン顔真っ赤。

マリアンのことで何か言われたのかな?



―――アリアを、頼むよ。王子様?




『お前、ダリルシェイドでゆっくり休んだ方が良かったんじゃないのか?』
「いいじゃない。休暇をどう使おうが僕の勝手だよ。」
『いや、そうじゃなくてだな。お前、』
「やっと進展しそうなんだから、邪魔ものは退散しようよ。ね?」
『それが狙いかよ……ま、いっか。無理すんなよ。』
「はーい。」
『不安だ……マ・ジ・で・無理すんなよ?』
「なるべくね。」
『その返事は無理しないようにって思ってる人間の台詞じゃない……!』
「さてさて、最初はファンダリアに入らないと。ウッドロウとチェルシーの手伝いしなきゃ。」
『カノン、それって休暇って言わないんだぜ……』
アークとカノンがそんな会話をしていたことを、俺は知る由もない。



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