アウグストの十字架

 2.古城に集う、神秘の十字架



銀髪の男は歩みを進める。
路地の裏に足を踏み入れる彼の行く先には、ひとりの男がいた。

男は壁に凭れていたが、やがて壁から離れて銀髪の男へ向き直る。
菫色の髪を揺らして皮肉に口元を吊り上げた。


「……遅かったね?」
「そうか、それはすまないことをした。」
「何をしてきたんだい?」
「少々の慈善事業をな。」
「…そう。」
二人は夕暮れのなか歩き出す。道行く人々が、その人間離れした容姿に目を奪われていった。
しかしその視線を受けているはずの二人の男はその視線たちを気にも留めずに路地のさらに奥へと歩いていく。


二人は遂に足を止める。
その場所は優しい香りのするなだらかな草原が、どこまでも続いている不思議な場所だった。
そこにたたずむ美しい二人のせいでそう見えるのかもしれないが。

二人の男が足を止めて見ているのは、これまた容姿の整った一人の青年だった。
その青年はじっと足元の動物を見ている。その動物は子猫で、人間たちの争いに巻き込まれてしまったのか…すでに息はない。


「……」
黙りこむ青年の耳は、普通の人間よりも大きく尖っていた。それは青年が異形であるということを証明する何よりの証。
深い森のような緑色の髪は、さらりと動く。歩みを止めた二人の男はしばらく彼に声をかけることなくただただ彼を見つめていた。


「怖かったよな…もう、大丈夫。」
青年はそっと子猫を抱き上げると、足元の穴に優しく横たえる。その小さな子猫は小さな穴にすっぽりと収まった。
そして青年は子猫の体に土をかけ始める。やがて子猫の体を優しく覆った土の上に、青年は小枝を刺した。

「安心して眠ってください。」
両手を合わせて真剣な表情で俯いた青年はそう小さく呟く。そして立ち上がった青年は紅の双眸に鋭い光を浮かべてその墓標を見つめていた。



「優しいんだねぇ。」
そんな青年の背に、二人のうちの一人──菫色の髪を持つ、皮肉屋な男だ──が言葉を投げかける。
その男の声に反応して、青年が顔を上げた。そして驚いたように紅の双眸を丸くして二人の男に駆け寄っていく。

「サレさんに…ユーリ。どうしたんスか?」
「集合場所に来ないから探しに来たんだよ。」
「もうそんな時間だったのか……すみません。」
「まあ謝らなくてもいいんじゃない?こうなってることは予想ついてたしね。」
青年は素直に謝罪の言葉を口にして頭を下げた。そんな青年に菫色の男が肩をすくめ、彼の隣では銀髪の男がこくりと頷く。それを見て青年はほっと胸を撫でおろした。

そして自然と彼らの足は同じ方向へと向いたのだった。

 

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