アウグストの十字架

 2.古城に集う、神秘の十字架



青年らは足を止める。その場所は悪魔が住んでいるような古城の門の前だった。
しかし青年らはその不気味さを気にするでもなく、門を開けて城の大きなドアを開ける。大きく息を吸い込んだ青年は口の横に手を当てて、城の中すべてに聞こえるように腹に力を入れた。


「ただいま戻りましたー」
とたとた。
青年の声にすぐに階上から足音が響いた。小さく軽い足音だ。
やがて現れたその足音の持ち主は、満面の笑顔を隠さず青年に抱きついた。

「おかえりアッシュ!」
青年──アッシュに飛び込んできたのは、小柄な少女だった。
愛らしい風貌、靡く金糸、そして大きなピンク色の双眸。それを引き立たせる無邪気な表情は彼女の魅力だ。


「…凛ちゃん、僕も帰って来たんだし歓迎してよ?」
「ううん、サレにはやっちゃだめって…」
菫色の男がにやにやといやらしい笑みを浮かべると、呼ばれた少女──凛はぶんぶんと首を振る。
その様子を見て隣の男が銀髪を揺らして溜め息をついた。

「変態め…」
その呟きは聞こえたのだろうか、いや聞こえなかったのだろう。
菫色の男──サレはにやにやとした笑みを崩さずに凛にかまっている。凛がアッシュの後ろに隠れて上目遣いにサレを見つめている様は、非常に愛らしい。

「ほ、ほら凛さん、城の中に入りましょう?」
「うん……」
アッシュが促すと大人しく頷いて、凛はくるりと背を向けた。
その際アッシュの手を、小さな凛の手がぎゅっと握るもんだからアッシュは思わず頬が緩んだ。その様を見て銀髪──ユーリは思う。

変態というか、幼女趣味?




「みんなここにいるよ!」
「みんな?全員いるんですか?」
「うん!」
大広間の入口まで来た四人。首を傾げるアッシュの声に笑顔で頷いた凛はドアを開ける。
そして彼女は玄関までアッシュらを迎えに来た時と同じように、とたとたと軽い足音を立てて自分の席に戻っていった。
三人は開け放たれたままのドアから中を見る。

その部屋の中には長テーブルが置いてあり、そこにずらりと椅子が並んでいるのだが。
テーブルに座る席順は決められたものであり、自分は必ずその決められた椅子に座らなければらない。そんな決まりのある部屋の中はかつてなかったのではないかと思うほど人数が揃っていた。


「なんだこれは……」
ユーリが呟く。ずらりと並んでいる椅子たちの主が揃っていることに目を見開いていた。
椅子は全部で十二脚、今現在椅子についている人数は九人。つまり椅子はユーリとサレ、そしてアッシュのものと客人用以外のすべてが使われており、それはこの城に住んでいる住人が一同に会しているということを示している。

「珍しいこともあるんだねぇ。」
そう呟いたサレが自分の席へと向かう。もちろん入り口からでも見える城の主に手を振ってから。アッシュも続く。
続いてユーリも同じく“城主”に一礼してから自分の席へついた。


「みんな、冗談はそこまでよ。」

城主──入り口からは一番奥の席についている、黒髪の女性のことだ。
そんな彼女は微笑みをそのままに、ティーカップを傾ける。かちゃりと音を立ててソーサーにカップを戻した彼女は、小さく息をついた。
そして全員に視線を巡らせてくすりと妖艶に微笑む。


「──依頼が来たわ。」


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