triste

 告げられ発する言葉に怯える





「和泉!!」
勢いよく障子が開き、現れたのは黒髪の少年だった。


「あ…」
「蘭丸が遊びに来てやったぞ!!喜べ!」
胸を張るこの少年はとても戦場に出て人を殺めるような少年には見えない。
しかし弓についている返り血が和泉を複雑な気持ちにさせた。



「また来たのですか蘭丸。無闇やたらに私の部屋に入ってこないでください。」
「じゃあ和泉を蘭丸の部下にすればいいだろ。そうすればお前の部屋になんか来ないよーだ!」
「それは却下しますと前にも言ったでしょう。」
「光秀のばーか!けち!」
「殺してあげましょうか、蘭丸。」
彼は和泉がここに来てから、常に死神(明智光秀という名の銀髪の男のことだ)の監視下にある和泉の元をよく訪ねてくれる。
単純に和泉が物珍しいだけなのかもしれないが(最初に会った時、和泉の目の色を見てはしゃいでいたのは彼だったから)。


「和泉!今日な、信長様に褒められたんだ!!」
「よかったですね、森さん。」
「うん!悪いやつをいっぱい『倒した』って!!見てよ、金平糖もくれたんだよ!!」
ほら、
そう言って少年が和泉に見せるのは一粒の金平糖。
満面の笑顔で和泉に話しかけるこの少年は、今日も千人もの人間を殺めて来たのだろうか。




『金平糖……』
数日前の明智との会話で発覚したその事実に、和泉は動揺が隠せなかった。
小さく呟いたつもりだったが明智には聞こえたらしく、書き物をしていた彼は振り返る。そしていつものような残忍な笑顔を見せた死神は、そのまま和泉の目を覗き込んできた。


『あの金平糖、どうしたら蘭丸が貰えるか…教えてあげましょうか?』
『?……何か意味があるのですか?』
『信長公はご存知でしょう?』
『……はい。』
織田信長――最初見た時、修羅か何かかと思ってしまったあの男。

その男は思っていたほど怖い人間ではなかった(謎の言動は多いが)。
そんな男が目の前の少年を可愛がっている様子は和泉も何度か目にしたし、それ故に金平糖をあげるのだと思っていた。


『あの金平糖は、』
しかし、明智が放った言葉は和泉が想像していたものと遥かにかけ離れていた。
そのまま血色の悪い唇が開かれる。



『蘭丸が敵将を千人殺した褒美として、信長公が一粒差し上げているのですよ。』
『…!』
『今日彼があなたに見せていた金平糖の数は三つ…三千人、です。』
『……三千、人…』
『ふふ……』
目を見開いたまま固まってしまい言葉が出てこなかった和泉を見て、彼は愉快そうに喉を鳴らす。
和泉の顎を掬って微笑む死神。


『あの子供がこの戦乱の世で一番残酷だと、私は思うのですがね。』
男はそっと和泉の耳元で、優しく甘い言葉を恋人へ贈るように囁く。
首筋が粟立ち思わず彼を押し返せば、死神はぞっとするような恍惚の表情でこちらを見たのだ。

全身の血が無くなるような錯覚に陥った和泉は、思わず彼から目を逸らしてしまった。



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