triste

 告げられ発する言葉に怯える




「和泉!」
「っ…!」
元気な声で我に返る。
目の前では頬を膨らませた少年が不服そうに和泉を見つめていた。


「蘭丸の話ちゃんと聞いてたか?」
「あ、ごめんなさい……もう一度聞かせていただけますか?」
考えをはぐらかすように笑みを貼り付ける。
少年――蘭丸は満足そうに大きく頷き、小さな袋から一粒の金平糖を取り出した。


「はい!これ、和泉にあげる。」
「…私、に?」
「うん。…和泉は、蘭丸のこと子供扱いしない。」
「本当に子供でしょう。」
「光秀は黙ってろよっ!!それに…話もちゃんと聞いてくれるから。」
「先程は何やらぼんやりとしていましたがねぇ。」
「光秀うるさい!…だ、だからあげるっ。」

横やりを入れて来た明智に舌を出した蘭丸は、和泉の手を取って桃色の金平糖を握らせてくれた。
小さな金平糖なのに、なんだか重く感じる。


「和泉は…金平糖嫌い?」
「…いいえ、そんなことないです。ありがとう、森さん。」
「へへん!」
「金平糖一つで威張ることもないでしょうに……」
「みーつーひーでー!!」

複雑な心持ちでそれを見ていたら、蘭丸が寂しそうに俯いた。
表情を取り繕って礼を言えば、照れたのか頬を染めてにっこりとした子供らしい笑顔を見せる。

しかしその笑顔も、横で溜め息をついた明智のせいで長くは続かなかったが。



「あ、そうだ!!それとな和泉!」
「?」
「信長様が次の戦に和泉も連れて行ってくれるって!!」
「…わ、たし?」
頭を鈍器で殴られたような気分だった。
…一体なぜ?

「あなたの治癒能力を信長公はいたく気に入っていましてね。戦場に連れて行けばあなたの能力を遺憾なく発揮できるのでは、とお考えになったのでしょう。」
そんな和泉の心を見透かしたように明智が笑う。正直、まだ頭がついていかない。


「次の戦は豊臣が相手でしてね、少々厄介なんですよ。豊臣秀吉はもちろん、竹中半兵衛や石田三成がいますからねぇ……」
「そいつらを『やっつけに行く』のに、和泉がいれば楽になるんだって信長様、言ってたんだ!」

ひどく乾いてきた喉をどうにかしようと蘭丸が持ってきてくれたお茶を流し込むが、それでも乾きは癒えない。
くふふ、どこかで聞いたようなくぐもった笑い声を発して死神が残酷に微笑んだ。


「……っ…」
動揺を隠せない和泉に、明智は嬉々として微笑む。
その様はとても美しいものなのに、何故だか和泉にはひどく恐ろしいものに見えた。

 

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