triste

 優しきものを労わる兎




「先程はどうもすみません。」
「いえ、怪我…ありませんか?」
「…ええ、お陰でどこも。それより、」
私の質問に満面の笑顔で返答した明智さんはそのまま私に近寄って……腰に、手を…?

「ひゃぁっ!?」
「大人しくしていてくださいね。」
そのまま担がれてしまった私は明智さんと一緒に戦場での逃亡を開始したのだった。明智さん見た目によらず意外とパワフル…。
担がれているせいで私からは追ってくる忍者さんたちがはっきり見えていた。


「あれは……?」
「豊臣軍の忍ですよ。あの場所にあなたがいると嗅ぎつけられたのでしょう。」
「あの、明智さん…私を置いて逃げれば良かったんじゃないでしょうか…?彼らの狙いは私だって……」
「……あ。」
意外すぎる彼の行動だったけど、忘れてたみたいだった。でも私を担いだまま明智さんは後ろ手に針を飛ばす(どこに持ってたんだろ…)。

「冗談です。置いていくと帰蝶とあの餓鬼がうるさいのでね。」
「明智さんって意外と人間っぽいですね。」
「どういう意味ですそれ。」
「だって面倒とかうるさいからって理由をつけて人を担いで逃げるなんて、死神じゃ出来ないですよ。」
私も針を投げる。忍さんには申し訳ないけれど、腕や足を狙ってるので勘弁してほしい。
致命傷じゃないから怨まないでくださいね。

でもここで、またあの蛇腹剣が明智さんを襲った。
手を出して氷の膜を張る。何とかまた弾くことが出来た。


「……やはり、あなたですか。」
私を下ろしてくれた明智さんが、じっと草むらの方を見て鎌を舐めた。
その様子に相手ももう隠れられないと思ってか、くすくすと上品な声を上げて笑いながら草むらから出て来る。

その人はまっしろだった。
柔らかい髪も、綺麗な肌も、着ているものも全て。


「…こんにちは“癒しの御使い”君。」
「……っ!」
にこりと笑みを作る彼と目が合う。瞬間全身が粟立った。
思わず目を逸らしてしまった。明智さんと初めて会った時とは全く違う…でもそれ以上の戦慄。…見た目も細くて華奢な男性だし、雰囲気も明智さんや織田さんみたいにデンジャラスではないのに。

「ふぅん……君が体を張って守ろうとするからには…彼女は相当特別なものを持っているようだね?光秀君。」
「相変わらずあなたは詮索がお好きですねぇ、竹中半兵衛。」
でもこの華奢な男性が、さっきの蛇腹剣を手足のように扱って明智さんを切ろうとしたのも事実だ。油断はできない。
蛇腹剣──今は普通の剣のようになっている──を抜いたまま彼は明智さんと話を続ける。


「城で餓鬼がうるさくなるから持ち帰るだけです。」
「魔王の子までも懐かせたのかい?なるほど……伝説の忍の件もあるし、懐柔する能力は高いといったところか…」
「あれは相手が優しければ尻尾を振って腹を見せる、とんだ番犬ですよ。」
「……連れて行ってほしくない、僕にはそう言っているように聞こえるな。」
「私の言葉をあなたがどう解釈しようが勝手ですが、それを押し付けられるのは不愉快ですね。」
明智さんのその言葉を最後に、空気が一転して冷えた。

「……」
「……」
がきんっ
一瞬の瞬きの後、二人の武器は火花を散らして打ち合いを始める。
 

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